今回の記事も相続にまつわる知識について書いていきます。相続実務の記事になります。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、相続分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。
前回までは戸籍を調査し相続人を確定させたり、財産を調査し遺産を把握する方法について記事を書いてきました。今回は相続人にどのような遺言書を残すことが出来るのか、財産をどのように分配するのかを決める遺言書について解説していきたいと思います。
この記事を読むことで自筆遺言書の書き方について知ることができ、自分で遺言書を作成できるようになります。
相続の順序
相続手続きのフローチャートです。相続が開始されれば遺言があるか、ないかで手続きが変わってきます。前回までの記事では遺言書がない場合の相続人の確定や相続財産の調査、相続の承認または放棄までの手続きについて解説してきました。
今回の記事では遺言書がある場合の自筆遺言の書き方について詳しく解説していきます。
自筆遺言書とは
遺言には、全文、作成の日付、氏名を遺言者が自署し、署名の下に押印する方式です。押印は指印でも可能です。証人も不要です。そのため偽造、変造、隠匿などの問題が生じることがあるので注意が必要です。日付については「吉日」という書き方は無効です。
遺言には財産目録を作成しますが、自署でなくても構いません。つまり財産目録についてはパソコンや第三者による代筆でも作成が可能です。また、不動産登記や預貯金債権の写しを添付することもできます。この場合、目録ページに遺言者の署名押印が必要になります。
では例文を見てみましょう。
書き方のポイント
上記の内容の遺言書を作成するためのポイントを解説します。
財産を把握するために必要な書類を集める
遺言書を作成するときには、どのような遺産があるのか把握する必要があります。事前に以下のような財産に関する資料を集めましょう。
・不動産の登記簿(全部事項証明書)
・預貯金通帳、取引明細書
・証券会社やFX会社、仮想通貨交換所における取引資料
・ゴルフ会員権の証書
財産目録はパソコンで作成可能
遺言書には、どのような遺産があるのかを明らかにするための「財産目録」を作成するのもひとつです。財産目録は資産内容と負債内容、合計額を示す「一覧表」のことをいいます。自筆証書遺言であっても財産目録についてのみ、代筆やパソコンの利用が可能です。
また預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書などの資料の添付でも代用できます。ただしパソコンや資料で代用する場合にはすべてのページに署名押印が必要です。
誰に、何を相続させるのか明示する
誰にどの遺産を相続させるのか、わかりやすく書きます。曖昧な分割内容の遺言を書いた場合、分け方が多岐にわたって生じるのでトラブルになりかねません。
遺言を書くときには、紹介したひな形にあるように、長男には「○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○」、次男には「○○株式会社の株式 数量○○株」などと「どの遺産を、どれだけ相続させるのか」を明確にすればトラブルを防げます。
遺言執行者を指定する
遺言書で遺言執行者を指定しておくと、遺言内容をスムーズに実現できます。紹介したひな形には長男になっています。行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
間違ったときや内容を書き足したいときの「加除訂正」には法律の定めるルールがあります。まず間違った部分を二重線で消し、正しい文言を「吹き出し」を使って書き入れます。
その上で余白部分に「2字を削除、4字加入」などと書いて署名押印します。修正テープを使ったり黒く塗りつぶしたりしてはなりません。署名押印が抜けても遺言書全体が無効になります。
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言を作成する上での注意点に解説します。
複数人の共同遺言は無効
遺言書は1人1人が自分の分を作成しなければなりません。共同での遺言は無効となります。
遺留分侵害はトラブルになる可能性がある
法定相続人には主張すれば最低限はもらえる「遺留分」があります。遺留分を侵害された法定相続人には遺留分に相当する金額を請求する権利があり、遺言書の相続人とトラブルにつながるので注意が必要です。
勝手に開封せず、裁判所で検認を受ける
自筆証書遺言を遺した場合、相続人たちは原則として家庭裁判所で「検認」を受けなければなりません。検認とは、裁判所で遺言書の内容や状態を確認してもらう手続きです。検認を終えなければ遺言書によって不動産の名義の書き換えや預貯金の払い戻しなどを受けられません。ただし、法務局に自筆証書遺言を預けた場合には検認が不要となります。
自筆証書遺言を法務局で保管してもらう
自筆証書遺言は基本的に自分で保管する必要がありますが、法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」があります。費用は、1件3900円です。この制度によって、遺言書の紛失や隠匿などを防止できるといったメリットがあります。
まとめ
今回は以前ご紹介した遺言書についてさらに詳しく自筆遺言の書き方のポイントを解説しました。遺言は形式が整っていないと無効になっていまうとても難しい制度です。そのためポイントや注意したい部分を押さえて書いてみましょう。
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