【民事信託/家族信託とは】~行政書士試験合格者が解説~

成年後見制度

今回の記事も成年後見制度についての知識について書いていきます。成年後見事務知識の記事になります。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、成年後見業務に興味がある方に向けて記事を書いていきます。
今回の記事は成年後見人制度に似た制度である民事信託について説明します。
今回の記事を読むことで成年後見業務と民事信託の違いを知ってもらえればと思います。

信託とは、特定の者が一定の目的に従って財産の管理または処分など必要な行為をすることをいい、一言で言えば、「財産管理」と「財産承継」のための制度です。このうち、民事信託は、財産を持っていてその財産から利益を受ける人に代わって、その人の家族が、その人のために、財産の管理や処分をするという財産管理の方法です。

民事信託と似た言葉として「家族信託」が挙げられます。家族信託と民事信託は実質的に同じものであり、両方とも法律による定義はありません。少なくとも信託を利用する場合、これらの違いを意識する必要はありません。
「家族信託」は商標登録されていますが、信頼できる家族に財産の管理処分を任せる信託という趣旨で使用する限り、用語の使用の制限をすることはないとのことです。ただ、「民事信託」と呼ぶか、「家族信託」と呼ぶのかは、一定の傾向があります。

家族のために民事信託を利用する場合、どのような手順で行うことになるか解説します。

信託は法律論としても難しいため、ご自身のみでやろうとせず、まずは専門家に相談することをおすすめします。
専門家と相談して「どんな希望があるのか」を伝えます。相談の結果、民事信託ではなく、他の手段、たとえば、遺言あるいは後見などをすすめられる場合もあるでしょう。

民事信託に関する契約書を作成してもらいます。契約書の内容に不備があると契約自体が無効になってしまうおそれもあるため、できる限り専門家に内容を作成してもらうようにしてください。
また、契約書に公的な効力を持たせたいのであれば、契約書を公正証書にすることも考えられます。その場合、契約書を公証人役場に持ち込んで、手続きを進めることになります。
多くの金融機関では、公正証書で契約書を作成しなければ、「信託口口座」の開設に応じてくれないこともあるため注意が必要です。

不動産を信託する場合には、その不動産について信託の登記を行い、信託財産であることを客観的に明示する必要があります。
具体的には、①委託者から受託者への「所有権移転登記」、②信託財産であることを明示する「信託登記」の2種類の登記をすることになります。

民事信託では、信託された金銭が悪用されないよう、金融機関において開設された信託口口座が必要になります。信託口口座は特殊な口座なので、一部の銀行や信用金庫などでしか取り扱いがありません。そのため、信託を検討した初期の段階において、どの金融機関で信託口口座が開設できるかの事前確認は必要となります。

信託可能な財産の範囲

民事信託では、基本的に信託できる財産の範囲に制限はありません。そのため、現金や不動産はもちろんのこと、非上場株式も信託財産にできます。ただし、上場株式や国債、投資信託については、商品を取り扱う証券会社や信託銀行との関係で、信託財産とすることは難しいです。
商事信託での信託財産は、現金に限られるケースが多いです。収益物件も信託財産となるケースはありますが、自宅不動産や非上場株式は基本的に対象とされません。現金以外の信託を行いたい場合には、商事信託ではなく民事信託の利用を検討することになります。

民事信託と成年後見制度

民事信託と成年後見制度は、認知症対策としても利用できる制度です。ただし、目的や管理できる財産の範囲が異なります。以下で2つの制度の違いと併用方法について見ていきましょう。

目的

民事信託では、信託契約の内容に沿って受託者が委託者の財産の運用・管理・処分を行います。民事信託の目的は、委託者の財産管理を受託者が適切に行うことです。
一方、成年後見制度の目的は判断能力が低下した方の権利と利益を守ることです。成年後見制度では、家庭裁判所によって被後見人の契約締結などの法律行為を代理する成年後見人が選任されます。本人だけで法律行為をすることは制限されますが、成年後見人が本人の法律行為を代理することで介護施設への入居契約などが可能になります。

管理範囲

民事信託で管理する信託可能な財産には、制度上特段の制限はありません。金銭をはじめ、有価証券、不動産などの金銭的価値のあるものを信託可能です。信託財産についても、どのような目的で運用・管理し、その手段をどうするかも委託者が信託契約内容で決めておくことができます。
成年後見制度において成年後見人等は、本人の生活に関わる医療、介護などの本人の身の回りに関することに目を配りつつ、本人の保護と支援を行います。本人の財産を管理し、体の状態や生活の状況も考慮して必要な福祉サービス、医療、介護サービスなどを受けられるように、介護契約など法律行為である契約締結や医療費などの支払いを行います。ただし、食事の世話や介護そのものは成年後見人等の職務に含まれていません。

民事信託と成年後見制度は併用も可能

民事信託と成年後見制度の併用は可能です。民事信託では身上保護を行えないため、受託者は本人に代わって介護施設などへの入居手続きができません。しかし、成年後見制度では身上保護を行うことができます。財産管理だけでなく、身上保護を行う必要がある場合には、民事信託と成年後見制度の併用も検討すると良いでしょう。
また、信託財産以外にも多くの財産があって民事信託の受託者だけでは全ての財産管理ができない場合には、任意後見制度との併用で信託財産以外の財産管理ができるようになります。

まとめ

今回は成年後見制度に似た制度である民事信託についてご紹介しました。さまざまな制度のいい部分を活用し安心した生活を送れるように準備していきましょう。

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