今回の記事から、行政書士の市民法務業務について書いていきたいと思います。行政書士の業務には、権利義務に関する書類の作成とその代理・相談というものがあります。今回からは、その権利義務に関する書類の中で、契約書の作成と内容証明書についての記事を書いていきます。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、市民法務分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。
では早速ですが、契約書の作成をするためにまずは契約とは何かを知る必要があります。民法の勉強にも契約についての問題が多く出題されています。復習も兼ねて、契約について確認していきましょう。
この記事を読むことで、契約についての概要を知ることができます。
契約とは
契約とは、簡単にいうと、「約束、合意」のことです。簡単に解釈すると「約束イコール契約」と考 えてもらえばよいでしょう。契約はなぜ守らなければいけないか というと、「約束したからである」とい えます。つまり、約束していない人にとっては何の効力も生じないのが契約であり、契約の拘束力は、約束した人 (契約当事者)の間にのみ発生するこ とになります。そして、契約は、①契約を締結した いという申し込みと、②その申し込みに対する承諾という2つがなされることによって、有効に成立します(民法 522条1項)。
契約は、申し込みと承諾があれば成起立するため、そこには契約書の締結や 発注書と発注請書のやり取りといった手続きが必要なものではありません (民法522条2項)。つまり、契約は書面のやり取りなどがなされなくても、 口頭で申し込みと承諾があれば、成立します。
契約の成立時期
申し込みと承諾で契約は成立するため、承諾がなされた時期が、契約の成立時期になります。このため、例えば契約が成立して取引が開始された後に、当事者間で契約書をつくるという場合など、契約の成立時期が契約書を締結した時期と必ずしも一致するとは限りません。消費者としてお店で物を購入するよ うな場合には、通常、申し込みと承諾はそれぞれ一回ずつで契約が成立しま す。
一方、企業間で取引を行う場合には、一回ずつの申し込みと承諾で契約が成立することは少なく、何度も望む条件等をやり取りすることになります。
例えば、ある会社が取引先に対して、「ある商品を1個10円で10個売ってください」と申し込みをしたとします。これに対して取引先は、「1個20円な らいいです」と答えたとします。このような場合、ある商品を10個売ることについては承諾していますが、実際には申し込みの内容の一部を変えて承諾をしています。このような「一部を変えた承諾」は、 新たな申し込みと考えます。
これに対して「では、1個15円な らどうでしょう」とさらに答えたとすれば、これもまた一部を変えた承諾として新たな申し込みとなります。もちろん、取引先との交渉は、商品の代金についてのみ行われるものではなく、商品の仕様や納期など、さまざまな条件について行われることが通常です。これらの交渉においても、双方から申し込みがなされることになりま す。そして、最後に「この条件でいきましょう」「わかりました」といって、 双方の意思が合致した時点が、契約の成立時期になります。
契約が打ち切られた場合
契約を締結すべく商談を行っていたが、最終的に、当事者の意思が合致しなかったような場合には、契約は成立しません。このようなことは通常あり得ることであって、契約交渉の結果として、契約を成立させるに至らなかったとして も、どちらの当事者も何らの制裁も課されることはないのが原則です。
一般的に、契約関係に入ろうとする契約交渉中の段階では、相手方に対し て、信義則に照らして許されないと評価されるような行動をとってはならな い、という義務を負担していると考えられています。このため、契約関係に入ろうとする一方の当事者がその契約の締結の前段階において、例えば突如として契約交渉を理由なく打ち切ることによって、相手方当事者の期待を著しく損ねるなど信義則に照らして許されないと評価するような行動をとった場合には、相手方当事者が被った損害につき損害賠償責任を負うことがあるという理論が確立されています。このような理論は、契約締結上の過失の理論と呼ばれています。
契約書とは
契約書とは、原則として契約の存在書 や内容を証する書面のことをいいます。 すなわち契約の証拠書面=契約書、というものです。契約(=合意、約束)とは、前回を話しした通り目に見えない概念です。このため、この契約を見えるように証拠化したのが契約書なのです。したがって、契約書を締結していなくても、契約は申し込みと承諾があれば成立します。契約書の締結は、契約の成立とは無関係です。
契約書の様式はなんでもいい
契約書といわれて、私たちが具体的 にイメージするのは、題名に○○契約書と書いてあり、その下に前文があって、その後にいろいろな条項が記されていて、最後に日付と記名押印がなされるものではないかと思います。しかし、契約書とは必ずしもこのような形式を備えたものだけではなく、 およそ契約の証拠となり得る書面であれば、契約書と評価できることになります。契約書という題名ではない書面であっても、契約の証拠となるものであればすべて契約書と評価されます。
なぜなら、当事者間で拘束力を有する契約が目に見えない概念であると後にさまざまなトラブルを引き 起こすおそれがあるため、 このようなトラブルを回避しようとして民間事業者の知恵として生まれた道具が、 契約書というものであるからです。このため、契約の証拠書面である契約書について、ある形式を備えてなければならないということが、法律によって決め られているものでもありません。契約が成立したことや、その成立した契約の内容を証明することができる書面は すべて契約書であって、その形式は問わないということになります。また、契約書は契約の証拠である以上、契約書を締結していないとしても、契約が不成立になるものではありません。
契約書があれば契約内容を分かりやすく把握できます。
契約書の意義
契約が成立しているかどうかは、申し込みと承諾が適切になされたかどうかによって決まります。実際、世の中で締結されているほとんどの契約(例えば、日常的に締結さ れているスーパーやコンビニでの売買契約など)は、契約書などの証拠は作成されていません。契約書は、通常ビジネスにおいて契約 を締結する場合に限って用いられているのです。
契約書の作成・締結は、契約の成者立・不成立だけではなく、契約の有効性とも無関係なのが原則です。
ただし、 例外的があり法律上書面によらなければ契約の効力が発生しない契約というのが存在します。
契約書が必要な例として「当事者間の紛争についてどの裁判所で審理するか」 という管轄合意があります。契約書を 締結する際に、毎回なぜ管轄合意の条項を設けるのかという理由の1つは、 契約書という書面にしないと効力を発しない合意だからです。せっかく当事者間で合意した内容の契約書をつくるのなら、 二度手間にならないように入れておこうということです。
書面による契約が必要な契約類型の契約書という書面を締結すれば足りる契約類型もあれば、公正証書という公証人が作成する証書によってなされる必要がある契約類型もあります。前者の例は、通常の保証契約、定期借地契約などです。後者の例は、主たる債務が事業用融資である場合に個人が保証人となる契約(2020年4月より公証人による保証意思確認手続きを経て、 公正証書の作成が効力発生のために必要)、事業用定期借地契約などです。
契約書が文言
契約書は契約の証拠です。この証拠をいつ誰が使うのかといえば、今ではなく将来において、会社であれば多くの場合には後任の担当者であり、当時どんな契約が締結されているのかを確認するために使います。もちろん、自分が記憶の薄れた将来になって確認するために使うということもあります。
このように契約書は当時の事情を知らない、または覚えていない人が読むことが想定されています。このた め、契約書の文言は事情を知らない人が読んで、意味がわかるものであるということを前提としてつくられているはずです。したがって、契約書の文言は、その文言上、素直に読む場合の意味として読むのが原則です。法律的ないい方をすれば、「社会通念等を前提に、その文言上、一番自然に解釈される」ということになります。
また、契約書外の事情、例えば契約書を締結する前の口頭のやり取りなどは、契約内容の認定においては、原則としてほとんど考慮されません。契約書に記載されている文言だけで解釈されるのが原則です。 契約書外の事情を考慮しないといけないのであれば、 契約書を証拠として残しておく意味がな いからです。
ただし、契約書の文言を自然に解釈することが難しい場合、例えば契約書の文言が不明確な場合とか、契約書の文言をそのまま自然に解釈すると極めて不合理な結果になるような場合には、 その他の事情が考慮されることもあります。しかし、契約書外の事情はあくまで補完的に考慮されるものであり、例外的な取り扱いであることに留意しておく必要があります。
まとめ
今回は契約についてご紹介しました。契約には特有の決まりがあります。その契約は日常的に行われています。例えば、買い物をすることは売買契約ですし、家を借りていれば賃貸借契約が成立しています。外食することも契約の一つです。そんな日常の中に溶け込んでいる契約ですが、意外とその成立時期や契約が破棄された場合に損害賠償が生じるなど知らないことがあるかもしれません。今
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