前回の記事から引き続き、行政書士の市民法務業務について書いていきたいと思います。行政書士の業務には、権利義務に関する書類の作成とその代理・相談というものがあります。その権利義務に関する書類の中で、契約書の作成と内容証明書についての記事を書いていきます。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、市民法務分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。今回は、前回ご紹介した契約の自由の強行規定に記事を書きたいと思います。この記事を読むことで契約書の作成に必要な知識を深めることが出来ます。
強行規定とは=契約自由の原則の例外
まず初めに、前回に引き続き強行規定について説明します。強行規定とは、たとえ契約当事者の合意があったとしても、優先される法律の規定のことです。いわゆる「契約自由の原則」のうち、内容自由の原則の例外に該当する法律の規定ともいえます。
強行規定=法令中の公の秩序に関する規定(民法第91条)
また、強行規定は、民法第91条の表現を引用すれば、「法令中の公の秩序に関する規定」ということになります。
民法第91条(任意規定と異なる意思表示)法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
一般に、契約に関する規定は、任意規定が多いとされていますが、完全に自由というわけではありません。
強行規定と任意規定の違いとは?
任意規定は法律の規定があっても、それと異なる特約や個別契約などをした場合は、その特約や個別契約が優先されるというものです。任意規定は補助規定あるいは解釈規定とも呼ばれ、当事者の合理的意思解釈を助けるものとして規定されています。民法では、契約に関する条文の多くは「任意規定」です。
それに対し、民法の物権に関する規定は物権法定主義とされているため「強行規定」が多くあります。物権は法律で定められているものに限って認められ、私人が自由に物権を作ることはできません。例えば所有権は物を使用・収益・処分する権利ですが、この内容を私人が変更できるとなると権利関係が複雑になり、誰がどのような権利を持っているかわからなくなります。そのため、物権は強行規定として変更できないようになっているのです。
強行規定は公の秩序に関する規定であるため、当事者が自由に内容を変更することはできません。一方で任意規定は公の秩序に関係しない規定であるため、当事者の意思によって自由に内容を変更することができます。
強行規定と任意規定の違いは特約の優劣
強行規定と任意規定の違いは、当事者間でそれと異なる合意=契約・特約があった場合、どちらが優先されるのか、という点にあります。
①強行規定は、それと異なる合意=契約があった場合でも、強行規定=法律のほうが優先されます。
②任意規定は、それと異なる合意=契約・特約があった場合、合意=契約のほうが優先されます。
強行規定と任意規定の判断の仕方
強行規定と任意規定の具体例を見てきましたが、どのように区別すればよいのでしょうか。判断の方法は以下の3つです。
1.法令の趣旨から判断する
2.条文記載の文言から判断する
3.先行する判例や学説で判断する
法令の趣旨から判断する
法律には、必ず立法目的があります。民法であれば私人間に関する取り決めなど、労働基準法であれば労働者の保護などです。法律の目的が公共性の高いもの(労働基準法、利息制限法等)は、強行規定が多くなります。それに対して公共性が低いもの(民法等)は、任意規定が多くなります。ただし、民法の中でも債権法は任意規定が多く、物権法は強行規定が多いなど、同じ法律でも公共性の違いによって強行規定と任意規定の多寡が異なるので注意が必要です。
条文に記載の文言から判断する
任意規定は条文に「〜することができる」や「別段の意思表示がない場合は」という文言が入っています。それに対して強行規定は、条文に「〜しなければならない」「〜することはできない」「〜に反するものは無効とする」などと書かれています。ただし、すべての条文が上記のようにわかりやすく記載されているわけではありません。条文を見ただけでは、「強行規定」なのか「任意規定」なのかわからないものもたくさんあります。その場合は、条文の趣旨から判断することになります。
先行する判例や学説で判断する
同じ条文でも、強行規定とする見解もあれば任意規定とする見解もあります。学説上の見解が分かれている場合は自分で判断するしかありませんが、判例がある場合は判例を参考にするのが無難であると思います。ただし下級審の裁判例しかない場合は、見解が分かれる可能性があります。その場合は自分で調べて判断する必要があります。
強行規定の違反のリスク
強行規定を違反した契約をした場合に起こるリスクについて説明します。
強行規定は契約内容の無効の原因となる
強行規定に違反した場合のリスクとしては、契約内容が無効となる、という点があります。強行規定は、契約当事者の合意よりも優先して適用されるものですから、その合意は無効となります。こうした想定外のリスクを回避するためには、事前に強行規定の有無を徹底的にチェックして、無効となる契約を結ばないように注意する必要があります。
強行法規は罰則や行政処分の原因となる
強行規定は、単に民事上=契約内容として無効となるものだけではありません。強行規定の中には、罰則や行政処分の原因となるものもあります。強行規定については、違反によって罰則が科されたり行政処分が下されたりする可能性もあります。
まとめ
今回は強行規定について焦点を当ててご紹介しました。強行規定に違反してしまった場合は、契約書を作成する段階で強行規定に反する条項を発見した場合、その条項は無効になるため削除あるいは修正する必要があります。また、契約締結後に発見した場合、契約書を作り直すという方法を取った方がいいかもしれませんね。
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