今回の記事も現在業務で行っている福祉関係の知識と、行政書士としての知識を組み合わせ、福祉についての知識を記事にしていきたいと思います。福祉業務を専門としている行政書士は数がまだ少ないと聞いています。理由としては、福祉知識の難しさが挙げられています。今回からの記事を読んでいただくことで、行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、市民法務分野に興味がある方の知識が増えてもらえればと思います。前回、福祉事業開業に必要な指定の流れについて紹介しました。今回の記事はさらに開業するための要件を詳しく説明したいと思います。この記事を読むことで福祉事業解説のイメージがつくと思います。
福祉事業開業するために
福祉事業を始めるためには4つの要件をクリアする必要があります。
①法人格
②人員の要件
③物件
④その他
これらを準備してから福祉事業が開始されます。では順に説明していきます。
法人格の要件
法人格が必要ということは、「法人」でないと事業をすることができ ないということになります。
法人でもっとも有名なものは「株式会社」です。法人の種類に確認します。ここでは、株式会社のほか、「合同会社」 「一般社団法人(営利型)」 「NPO法人」の計4つの法人形態を紹介します。
株式会社
日本で、もっとも数が多い法人形態です。株式会社は、「株式」を持 っている株主と、株主から委任を受けた経営者が事業を行ない、利益が出れば株主に配当します。
ただし、日本の株式会社の多くは中小零細規模では、株主と経営者が同じという会社が多く、したがって1名でも会社設立は可能です。 また、複数で出資を行ない、株式会社を設立することも可能です。そ の際、株式の持ち分比率を全員が等分(たとえば、株主が2名で各人50株ずつ)とした場合は、経営方針で対立したときに事業が止まってしま うことがあり得るので、株式の持ち分比率には注意が必要です。
合同会社
合同会社の場合は「株主」 と「役員」が一致しており、迅速に動けるというメリットがあげられます(株式会社も、役員が全株式を持っていれば同じといえます)。また、合同会社は設立費用が安いというメリットもあり、福祉の分野に限らず、合同会社で起業する人が増加傾向にあります。
一般社団法人(営利型)
公的なイメージがある一般社団法人ですが、株式会社や合同会社と同じように手軽に設立できる法人形態です。一般社団法人は、株式ではな く議決権の数により理事会で採決を行なって運営します。なお、一般社団法人には「非営利型」という税制面で優遇される形態もあります。
特定非営利活動法人(NPO法人)
株式会社に次いで有名なのがNPO法人「特 定非営利活動法人」といいます。NPO法人では、設立するには10名が必要で、1年に一度、管轄行政機関への報告を義務づけられており、独自の「NPO法人会計」を使う必要があるなど、手間がかかることが多い法人形態です。しかし、社会的イメージも高く、障がい福祉事業を行なう法人では比較的多いといえます。
たとえば、これまで福祉関係の活動を行なっていた法人格のない団体 (ボランティア団体など)が、NPO法人となって、障がい福祉事業を行なうというケースもあります。
なお、その他の法人として、「医療法人」「社会福祉法人」「合資会社」などがあります。また現在、「有限会社」の新規設立はできませんが、すでに有限会社として活動しているのであれば、新たな事業として申請することは可能です。
定款の作成とその目的
法人を設立する際には、必ず「定款」というものを作成します。これは会社の憲法といわれるもので、そのなかに「目的」と呼ばれる部分があります。
「○○事業」を行なうということが明記されていないと行政の許認可を取ることはできません。障がい福祉事業も許認可事業ですので、定款に目的(登記する「事業」の目的)を記載する必要があり、申請時に実施する事業に即した内容が記載されていることが必要です。
「人」の要件
障がい福祉事業の指定を受けるための要件の2つ目は、「人」についてです。これは「人員配置」と呼ばれるもので、サービスごとに決められた、人員の配置基準があります。
詳しい人員配置基準については、各サービスによって違います。今回は各サービスの配置が必置となる「サ ービス管理責任者」と「児童発達支援管理責任者」について説明します(「短期入所」のサービスについては、サービス管理責任者 と児童発達支援管理責任者の配置は不要です)。
サービス管理責任者
サービス管理責任者(通称「サビ管」)とは、障がい福祉サービスの 提供に係るサービス管理を行なう者をいいます。
サービス管理責任者は具体的には、利用者に対するアセスメントの作成、個別支援計画の作成・評価、モニタリング、支援サービスに関わる 担当者との連絡調整など、サービス提供のプロセス全体を管理しますので、利用者を直接支援するというよりは、間接的に支援する職種となります。
サービス管理責任者の基本的な要件としては、障がいを持った方の保健・医療・福祉・就労・教育の分野における直接支援・相談支援などの 業務における実務経験が必要になってきます。
実務経験を満たしていれば(「実務経験証明書」を勤め先から発行してもらう必要があります)、そして、研修を修 了している必要があります(「相談支援初任者研修」と「サービス管理責任者研修」の2つの研修の修了が必要)。
児童発達支援管理責任者
児童発達支援管理責任者(通称「児発管」(じはつかん))とは、放課後等デイサービス、児童発達支援、保育所等訪問支援などの児童を対象とした障がい福祉サービスで、サービス管理を行なう者をいいます。
児童発達支援管理責任者は具体的には、サービス管理責任者と同じく、 利用者・保護者に対するアセスメントの作成、個別支援計画の作成・評 価、モニタリング、支援サービスに関わる担当者との連絡調整など、サ ービス提供のプロセス全体を管理し、保護者相談の対応などにも携わります。
物件選び
物件選びを誤ると、指定が取れなくなる、予想以上の出費を強いられる、利用者が来ない事業所になる可能性があるため注意が必要です。物件の選び方のみに限定すると、「訪問系・相談支援系のサービス」 と「就労系・児童系・居住系などのそれ以外のサービス」とに分けることができます。
たとえば、訪問系・相談支援系のサービスでは、基本的に利用者が来訪することが少ないので、消防法上のハードルは低いといえます。
今回は、利用者が事業所に訪れる「日中活動系・就労系・居 住系・障がい児通所系」のサービス(放課後等デイサービス、就労継続 支援A・B型、就労移行、生活介護、共同生活援助などのサービス)の 物件選びについて説明していきます。
物件選びの基本
利用者が事業所に訪れる「日中活動系・就労系・ 居住系・障がい児通所系」などのサービスの場合では、都市計画法、建築基準法、消防法、障害者総合支援法、児童福祉法、条例、規則、ガイドラインなどに適合させ、各種条例にも適合している物件である必要があります。
都市計画法
大前提として、障がい福祉事業は原則として、市街化調整区域では開業できません。市街化調整区域とは、原則として開発行為を行なわず、 都市施設の整備も原則として行なわれない地域です。
建築基準法
ビルや戸建てのどちらにするにしても、使用面積が200㎡未満の物件にしなければ、原則として建築基準法上の用途変更の手続きが必要になります。その手続きにあわせて工事が必要となる場合もあり、そ うなると数か月単位の期間と多額のお金を費やすことになります。
また、建築基準法が求める「建築確認申請を受けていること」「検査済証の交付を受けていること」のうち、最低でも「建築確認申請を受けていること」が必要です。平成になってから建築された建物は、「建築確認」「検査済証」ともに受けていることが多いです。ちなみに、「検査済証」がある物件は、家賃が高い傾向にあります。
消防法(条例を含む)
障がい福祉事業の指定申請時には、必ず消防の「防火対象物使用開始届」(指定権者によっては「消防済書」)を提出する必要があります。これらの文書は、消防法や関係条例の要求する設備が設置されているかどうかを管轄の消防署員が現地確認を行なった後にしか提出できません。物件によっては、この設備要件のレベルが高く、設備設置費用が高価になる場合があります。
消防法は非常に複雑な法律なので、消防設備の設置工事を行なう前に、管轄の消防署へ事前相談することは必要です。よく設置する消防設備には、「消火器」「誘導灯」「自動火災報知機」「スプリンクラー」「避難器具」などがあげられます。 なお、消火器の設置や誘導灯の工事を行なう場合、面積が大きくなければ、それほど費用は高いわけではありません。しかし、自動火災報知 機やスプリンクラーは、建物全体に工事を行なう必要があるので、費用 は高額になります(共同生活援助サービスなどについては、自動火災報知機は原則として必須です)。
条例(まちづくり条例やバリアフリー条例など)
各都道府県、市町村で制定されている条例に沿った物件である必要があり、物件によっては改修が必要になる場合もあります。改修となれば、条例に従うようにしなければならないので、地元で条例をよく理解している建築士さんに依頼するほうが良い場合もあるでしょう。
障害者総合支援法、児童福祉法、条例、規則、ガイドラインなど
各サービスによって違いがあるため確認しておきましょう。
その他の要件
スムーズに開業するために必要な事項を何点かご紹介します。
近隣の住民への説明
戸建てで、かつ住宅街で指定を受ける場合は、しっかりとした住民説明を行なう必要があります。社会の偏見などもないとはいえないので、法人代表者や管理者が、先頭に立って説明をする必要あるかもしれません。
車が駐車できるスペースがあること
障がい福祉事業所で、送迎サービスを行なう場合は、送迎車を駐車で きるスペースが必要になります。送迎時に利用者が安全に乗降できるよ うなスペースも確保したいところです。
利用者の通所、従業員の通勤のことも考えた立地
利用者が毎日通うことができる立地を選ぶことも重要です。また、従業員の通勤としての立地も検討しましょう。
災害のことを考えた立地
ハザードマップなどで確認し て、川や海から少し離れた立地のほうが、安全に事業継続していくことが出来るでしょう。また、浸水想定区域と土砂災害警戒区域を確認したうえで、この区域内に事 業所がある場合は、「避難確保計画の作成」と「避難訓練の実施」が必要です。
まとめ
今回は福祉事業を開業するための要件をご紹介しました。