今回の記事は行政書士のメイン業務である許認可についていくつかご紹介していきたいと思います。今回の記事を読んでいただくことで、行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、会社設立業務に興味がある方の知識が増えてもらえればと思います。
建築業で下請に依頼することが多い業界ですが、その下請に依頼が問題になっているケースがありますのでご紹介します。
偽装請負とは?
契約書上、形式的には請負契約ですが、実態としては労り、雇用契約であるものを偽装請負といいます。「雇用契約」はわかりやすいですが、難しいのは「請負契約」「労働者派遣契約」の違いです。
派遣契約と請負契約の違いは、業務の指揮命令を出すところが異なることです。派遣契約では、派遣先企業が派遣社員の業務に関する指揮や命令を出します。一方、請負契約では、労働者は発注者から業務の指揮を受けることはありません。派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結び派遣先企業で働きます。請負契約は、成果物を納品してもらうことが目的となります。
また、国土交通省の「監理技術者制度運用マニュアル」(最終改正 令和2年9月 30日国不建第130号) (https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/ 001380788.pdf)では、請負契約と雇用契約の違いについて、「「請負契約」とは、「当 事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報 酬を与えることを約する契約」であり、単に使用者の指揮命令に従い労務に服することを目的とし、仕事の完成に伴うリスクは負担しない 「雇用」とは区別される。」と 記載されています。
偽装請負に当たるかどうかは、「注文者と労働者の間に指揮命令関係があるか」 が判断のポイントになります。注文者と労働者の間に指揮命令関係があれば、それは請負契約ではなく、労働者派遣契約や雇用契約に該当する可能性が高いとい うことになります。労働者派遣契約と請負契約の判断基準については、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に記載さ れています。
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
第一条 この基準は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「法」という。)の施行に伴い、法の適正な運用を確保するためには労働者派遣事業(法第二条第三号に規定する労働者派遣事業 をいう。以下同じ。)に該当するか否かの判断を的確に行う必要があることに鑑み、労 働者派遣事業と請負により行われる事業との区分を明らかにすることを目的とする。 第二条 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させるこ とを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。 次のイ、口及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力 を自ら直接利用するものであること。
イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
ㇿ次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自らが行うものであること。
(1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理 (これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指 示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
八次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示 その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
二次のイ、口及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁する こと。
ㇿ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべて の責任を負うこと。
八次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでない こと。
(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易 な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。 第三条 前条各号のいずれにも該当する事業主であつても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって、その事業の真の目的が法第二条第 一号に規定する労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う 事業主であることを免れることができない。
出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」 (昭和61年 労働省告示第37号)(最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)(https://www.mhlw.go.jp/ content/000780136.pdf) より
偽装請負が起きる理由
偽装請負が起こるのかというと、労働者を受け入れる派遣先の建設業者 にとって次のようなメリットがあるからです。
・時間外手当を支給しなくてよい
・社会保険料や雇用保険料を負担しなくてよい
時間外手当の支給や社会保険料等の負担は、労働者派遣契約や雇用契約であった場合、事業者が本来果たさなければならない法律上の義務ですが、これらの義 務から逃れるために、形式上請負契約としているということです。労働者にとっては本来受け取るべき報酬が減ることになり、不利益でしかないため、偽装請負は禁止されています。偽装請負を行うと、派遣元も派遣先も労働者派遣法違反により罰則が科される可能性があるため注意が必要です。
まとめ
今回は請負契約と労働派遣について説明しました。請負契約とは指示系統が違い、さまざまなことを自ら決めれるはずですが、様々な指示がある場合は偽装請負の可能性がありますので、注意が必要です。