今回の記事から現在業務で行っている福祉関係の知識と、行政書士としての知識を組み合わせ、福祉についての知識を記事にしていきたいと思います。福祉業務を専門としている行政書士は数がまだ少ないと聞いています。理由としては、福祉知識の難しさが挙げられています。今回からの記事を読んでいただくことで、福祉事業の手助けになればと思います。今回は福祉事業で関わりのある精神科病院に関する精神保健福祉法が令和6年度に改正されましたので、ご紹介します。
精神保健福祉法改正のポイント
入院者訪問支援事業
- 市長同意入院者を対象に指定の研修を修了した訪問支援員が、患者本人の希望により精神科病院を訪問し、本人の話をていねいに聞き、必要な情報提供等を行う 「入院者訪問支援事業」を創設
- 都道府県および指定都市の任意事業として位置づける
訪問支援員とは?
・精神科に入院中の方の立場に立って面会交流を行う人
・資格等の制限はなく、国で標準化された研修を受講し、都道府県等が任命した者が担うことができる(当事者や保健医療福祉の従事者、弁護士、市民 等)
・守秘義務を持つ
・精神科病院を訪問し、入院している人からの生活に関する一般的な相談に応じ、体験や気持ちを丁寧に聴く
・入院中の生活に関する相談や、支援対象者が困りごとを解消したり、希望する支援を受けるためにはどうすれば良いのかを対象者に情報提供する
精神科病院における虐待防止に向けた取組の推進
- 職員の虐待を受けたと思われる患者を発見した者に、都道府県に通報することを義務付ける
- 都道府県は精神科病院の虐待状況について毎年公表する
精神科病院における「障害者虐待」とは?
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、「障害者虐待
防止法」)には、「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない。」と規定されており、広
く障害者に対する虐待行為が禁じられています。障害者虐待防止法第 31 条には、医療機関
を利用する障害者に対する虐待防止等について定められており、すべての医療機関におい
て、医療機関の業務従事者への研修や普及啓発、相談支援体制の整備等必要な措置を講じる
ことが求められています。
なかでも、精神科病院については、入院中の患者は全員精神障害者であるため、特段の配
慮が必要であり、このたび、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下、「精神保
健福祉法」)に、精神科病院における業務従事者による障害者虐待について定められました。
ここでいう「精神科病院」には、精神科単科の病院だけではなく、精神病床をもつすべての
病院が含まれます。
医療保護入院の見直し
- 市長同意入院において、家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも医療保護入院を可能とする
- 医療保護入院の入院期間を、入院から6カ月を経過するまでは3カ月以内とし、6カ月を経過した後は6カ月以内とする。家族等の同意の確認など、一定の要件を満たす場合において、入院期間の更新ができる(定期病状報告に代えて更新制度を創設)
- 医療保護・措置入院者を対象に、退院後生活環境相談員を選任
- 退院支援における地域の福祉等関係機関の紹介について従前の努力義務から義務化とし、措置入院者も新たに対象とする
医療保護入院とは?
精神障害のある人を対象に、本人からの同意がない場合(本人が拒否した場合など)に家族等から同意を得ることで始まる入院治療のことです。精神保健指定医(または特定医師)の診察の結果、医療や保護のために入院が必要な状態であるにもかかわらず、病状から本人の同意が得られない場合に、家族等の同意を得て行われるものです。ただし、本人に同意を求められる状態である場合には、本人に対して入院治療の必要性等を十分に説明し、可能な限り本人の同意を得る「任意入院」となるように努めなければならない、とされています。 本人の同意が得られず家族等からの同意による医療保護入院となった場合は、本人に対して入院措置となる旨や本人から退院を求める「退院請求」などについて、書面で知らせる必要があります。
市長同意入院の要件見直し
法改正により、家族が「同意・不同意の意思表示を行わない」との意思を明示している場合は、市長村長に医療保護入院の同意の依頼をすることが可能になりました。改正前の市長同意による医療保護入院は、原則として家族がいないことが要件となっていました。家族がいたとしても、心神喪失等の状態にあるため意思能力がなく同意ができない場合に市長同意入院が可能でした。あるいは、戸籍上で確認できる家族がいたとしても行方不明などの場合も市長同意入院が可能とされていました。この場合の行方不明とは、戸籍上の家族と連絡を取る手段がないことを指し、一時的に連絡が取れない状況は行方不明にあたらないとされています。
例え家族がいたとしても、その者が患者本人に虐待等をしていて、ほかに同意者となり得る家族がいないときは市町村同意による手続きが可能になります。
まとめ
今回は障害福祉事業で関わりのある精神科病院の法律改正について焦点を当ててみました。福祉関係の法改正は適宜行われますので、その都度確認していきましょう。
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