障害福祉サービス事業所では身体拘束に関して令和3年度障害福祉サービス等報酬改定で、令和4年度から『障がい者虐待防止の更なる推進』と『身体拘束の適正化』が義務付けられました。また、令和5年4月1日からは減算適用となり、令和6年度からは『虐待防止措置未実施減算』が新設されました。
身体拘束適正化について義務化された内容が適切に行われていなかった場合は、令和6年4月以降は減算額さます。、
- 施設・居住系サービス ➡ 基準を満たしていない場合に、所定単位数の10%減算
- 訪問・通所系サービス ➡ 基準を満たしていない場合に、所定単位数の1%減算
減算適用となってしまわないようにするためには…
- 身体拘束等について必要な記録を行う
- 身体拘束等の適正化委員会の設置、年1回以上の委員会の開催、検討結果の職員への周知徹底
- 身体拘束等の適正化のための指針整備
- 職員に対し、身体拘束等の適正化のための研修実施(年1回以上)
が必要となります。身体拘束について必要な記録や適正委員会を行うためには、身体拘束に対しての知識が必要となります。今回は身体拘束とは何か、どういったことが身体拘束にあたるのかを含め、身体拘束をやむおえず行う場合の対応方法についてもご紹介します。
身体拘束とは

身体拘束と身体抑制は、同じ意味を持つ言葉です。どちらも利用者の身体の自由を制限する行為を指します。
障がい者や介護施設では身体拘束という言葉を聞く機会があると思います。身体拘束が必要な場面としては、例えば、転倒のリスクがある認知症の方や障がいのある方を、車椅子やベッドに縛り付けるような行為を指します。
このように、身体拘束は人権や尊厳に関わる重要な問題です。障害者虐待防止法では身体拘束は身体的虐待に分類されています。

身体拘束を障害者虐待防止法では【正当な理由なく障害者の身体を拘束すること】と定義されています。身体的虐待の一般的なイメージは殴る蹴るなどの暴力だと思いますが、身体拘束も含まれています。
身体拘束の具体的な例としては
・車いすやベッドなどに縛り付ける
・手指の機能を制限するためにミトン型の手袋を付ける
・行動を制限するために介護衣(つなぎ服)を着せる
・職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する
・行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
・自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
車いすやベッドなどに縛り付ける
高齢者施設や病院では車いすやベッドに患者がいることがありますが、車いすから転倒しないように紐で車いすと患者を括り付けていたり、ベッドから転倒しないようにベッドの四点にベッド柵をしている行為は身体拘束にあたります。障害者施設であっても同じです。これは患者・利用者の安全のためとは言え、自由を奪う行為になります。
介護服(つなぎ服)を着せる
介護現場などでは認知症により、利用者が「おむつを外す」「便を触る(弄便 )」という症状が介護者にとって大きな負担となってしまうため、介護服(つなぎ服)を着せることがあります。しかし、これも身体的拘束にあたります。介護の負担軽減と利用者の衛生管理のために必要とはいえ、本人の行動の自由を制限することになってしまいます。
職員が利用者を押さえrつけて行動を制限する
利用者が暴れてしまった場合、職員が抱きかかえるように抑えて落ち着かせようとする場面があると思います。暴れる利用者を押さえなければ、他の利用者に危害が加わるなど危険回避のため、一時的でやむおえない対応かもしれませんが、これも身体拘束に当たります。身体拘束が必要な利用者がいる場合は、アセスメントし個別支援計画に記載し、後で紹介する身体拘束の3原則を守りましょう。
行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
夜間の不穏を抑えるために睡眠薬を過剰に投与したり、興奮状態を抑えるために常時向精神薬を使用したりする行為も身体拘束に当たります。こうした対応は、一時的に「落ち着いた状態」を作り出せても、利用者の本質的な問題解決にはつながりません。医師やその他の支援者と不穏になる理由を探り対応していく必要があります。
自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
利用者が外出できないように部屋に外から鍵をかけて閉じ込めるような行為は、身体拘束に当たります。これは、利用者の自由を奪い、心理的なストレスを与える可能性があるためです。
身体抑制(身体拘束)が認められる三原則

身体抑制(身体拘束)は、原則として避けるべき行為です。しかし、支援をしていく中でどうしても必要な場面というのはあるものです。そういった特定の状況下では認められる場合を身体拘束の三つの原則について説明します。
- 切迫性
- 非代替性
- 一時性
切迫性
切迫性の原則は、「利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと」です。例えば、利用者が突然激しい自傷行為を始めた場合や、他の利用者に対して暴力的な行動を取り始めた場合などが該当します。
非代替性
非代替性の原則は、「身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと」をさします.本人の生命と身体を保護するうえでほかに方法がないことを複数の職員で確認することが求められます。
代替性の具体例では、ベッドからの転落リスクの高い利用者に対しては、ベッドを低くしたり、床にマットを敷いたりするなどの環境整備が考えられます。また、不眠による夜間の起きてくる利用者には、日中の生活を見直し、睡眠リズムを整える取り組みが効果的かもしれません。
一時性
一時性の原則では「身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること」です。利用者の状態に応じて身体拘束はもっとも短い時間で実施されなければなりません。継続的または長期的な抑制は、利用者の身体的・精神的健康に深刻な悪影響を及ぼす可能性があるため、避けなければなりません。
例えば、興奮状態による自傷行為がある利用者に対して身体抑制を行う場合、その状態が落ち着いたら直ちに解除するべきです。
また、定期的な見直しも重要です。常に利用者の状態を観察・記録し、抑制の必要性を再評価するなどの取り組みが求められます。
一時性の原則を守ることで、利用者の自由と尊厳を最大限に尊重しつつ、必要最小限の身体抑制を実現できます。常に「できるだけ早く解除する」という意識を持ち、支援に当たりましょう。
身体拘束等の適正化のための指針を整備する
身体拘束は組織的な判断が必要となります。そのため指針を整備しましょう。指針には、以下7つの項目を記載します。
- 事業所における身体拘束等の適正化に関する基本的な考え方
- 身体拘束適正化検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
- 身体拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
- 事業所内で発生した身体拘束等の報告方法等の方策に関する基本方針
- 身体拘束等発生時の対応に関する基本方針
- 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
- その他身体拘束等の適正化の推進のための必要な基本方針
身体抑制(身体拘束)の実施方法

実際に身体抑制を行う場合の実施方法について解説します。
- 本人と家族への説明
- 再評価〜拘束解除
本人と家族への説明
身体抑制を実施する前に、利用者本人とその家族に対して丁寧な説明を行うことが必要です。
身体抑制を行う際には、その内容、目的、時間帯、期間などを詳細に説明しましょう。例えば「服薬がどうしても出来ないときには看護職員が別室で対応する」「突然のトラブルの際には職員が抑えることがある」といった具体的な内容を、わかりやすく伝えることが大切です。
また、個別支援計画にも身体拘束についての記載が必要です。同意書にもご家族の方へ十分な説明をおこない、同意をもらうことが大切です。
再評価
身体拘束は、一時性のものですので、定期的な再評価と、できるだけ早期の拘束解除を目指すことが重要です。
再評価では、身体抑制の必要性が継続しているかを検討します。また、代替性の方法はないかも検討しましょう。
障害福祉サービスでは身体拘束等の適正化のための指針を整備する必要があります。
まとめ
今回は身体拘束についてご紹介しました。身体抑制の三原則を理解することは、障害福祉サービスの運営において『身体拘束の適正化』が義務があり対応を求められています。
切迫性、非代替性、一時性という三つの条件を満たす場合にのみ、身体抑制が許容されますが、利用者の尊厳を守り、自立を支援するためには身体抑制は最後の手段として考えるべきです。
出来る限り、環境整備、コミュニケーションの改善、多職種連携などを行い、身体抑制に頼らない支援を行いましょう。
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