障害をお持ちの方が就労するための準備として、さまざまな障害福祉サービスがあります。例えば、就労機会の提供として就労継続支援B型や、雇用契約を結ぶ就労継続支援A型、一般就労するための訓練を行う就労移行支援などです。そして、今年の10月から開始した、就労支援先を選ぶためのサービスとして就労選択支援事業が開始しました。
今回は就労移行支援についてご紹介します。障害福祉サービスの就労支援がたくさんあるけど分からない方や、障害者の就労支援をもっと深く知りたい方、就労支援事業所を経営したいと考えている方の参考になればと思います。
この記事を読んで分かること
・就労移行支援の支援内容及びサービスが分かる
・就労移行支援事業の運営基準が分かる
就労移行支援事業とは

就労移行支援は就労を希望する65歳未満の人で、企業等に雇用されることが可能と見込まれる人に、一定期間の支援計画に基づき生産活動や職場体験の機会の提供、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、求職活動に関する支援、その適性に応じた職場の開拓、就職後の定着のための相談・支援を行います。利用期間は原則 2 年間です。就労移行支援を利用する際は就職していないこと、在学中は卒業見込みか等が条件になります。
就労移行支援で受けれる支援内容
就労移行支援には一般就労するためのトレーニングを行います。また、就労後の職場で定着するための支援も行っています。
生活リズムと体力の安定
まずは就職に向けて、日常生活の安定を図ることが必要となります。日々職場に通い続けるための働く土台をつくるための訓練を行います。
- 規則正しい生活習慣の定着
- 通勤訓練や体力向上トレーニング
- 集中力・作業継続力の強化
- 他者と協力する力を養うグループワーク
就労に必要なスキル習得
就労移行支援の中核となるのが職業訓練です。基礎的なビジネスマナーから、実践的なスキルまで学べます。支援内容は事業所ごとに異なるため、事前に体験や見学を通して自分の目指す就労先につながる訓練を受けれるか確認することが大切です。
- パソコン操作(Word、Excel、メール対応)
- 報連相などのビジネスコミュニケーション
- 電話応対、来客対応などのマナー研修
- 会計・簿記など求人ニーズの高い資格対策
- Webデザインや動画編集、プログラミングなどのITスキル
- 英会話やTOEIC対策
- 専門講師による資格取得支援
実習や職場体験
多くの事業所では、実際の企業と連携して職場実習の機会を設けています。実習先の開拓は支援員が担当し、実習中も定期的なフォローが行われます。
- 現場の業務内容や雰囲気を体験できる
- 自分に合った仕事や職種を確認できる
- 実習を通じてそのまま就職につながる可能性も
就職活動の支援
就職するために支援員と一緒に就職活動を行います。応募書類の添削や、企業との調整も支援員がサポートします。
- キャリアカウンセリング
- 履歴書・職務経歴書の作成支援
- 面接練習(模擬面接)
- ハローワークとの連携や企業見学
- 合同面接会の参加支援
就職後もサポート
無事に就職が決まった後も、サポートは継続します。就職後は、「職場定着支援」として以下の支援が行われます。
- 定期的なフォロー面談
- 悩みやトラブルの相談対応
- 必要に応じた企業側への助言や調整
厚生労働省の基準では、事業所はサービス終了後も、障害者就業・生活支援センターや職場適応援助者などと連携し、6ヶ月以上の職場定着支援を行うことが求められています。
さらに、6ヶ月の支援期間が終了した後、希望者は「就労定着支援(最大3年間)」へ移行することも可能です。
長期的に安定して働き続けられるよう、職場や本人の状況に応じた継続的な支援が受けられます。
- 勤務状況や体調の継続的モニタリング
- 職場環境の課題調整や職務見直しの助言
- 精神的サポートや生活面の相談支援 など
「就職できたけど、長く働き続けられるか不安」という方にとって、この制度がサポートしていくことが出来ます。
就労移行支援事業の開業・立ち上げに必要な条件・資格

就労移行支援事業を開業・運営していくためには、法人格を有した上で3つの条件を満たしている必要があります。
- 法人格を有している
- 人員基準を満たす
- 設備基準を満たす
- 運営基準を満たす
それぞれ詳しく解説していきます。
法人格を有している
就労移行支援事業は個人事業主では運営することができないため、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人といった法人格を取得する必要があります。
人員基準を満たす
就労移行支援事業の人員基準には、就労移行支援事業を開業・運営する上で必要な職種や配置人数が定められています。
人員基準を満たさないと事業所を開業することはできず、開業後も基準を満たし続ける必要があります。満たさない場合は報酬の減額や行政指導につながる場合もあるので注意が必要です。
管理者の資格要件は次のいずれかを満たす方となります。
| ① 社会福祉主事資格要件に該当する方(同等以上として社会福祉士、精神保健福祉士等) ② 社会福祉事業(社会福祉法第2条に規定する第一種・第二種社会福祉事業)に2年以上従事した経験のある方 ③ 社会福祉施設長認定講習会を修了した方 |
| 職 種 | 配 置 数 | 常勤要件 | 参 考 |
|---|---|---|---|
| 管理者 | 1名以上 | 兼務可 | |
| サービス管理責任者 | 1名以上 | あり | |
| 就労支援員 | 15:1(常勤換算で利用者数を15で除した数以上) | 常勤換算で1.0 | 資格不要 |
| 職業支援員 | 6:1 (常勤換算で利用者数を6で除した数以上) | どちらか1名については常勤 | 資格不要 |
| 生活支援員 |
※上記では、管理者とサビ管の兼務が可能ですので、最低定員であれば、3名で事業の開始が可能です。
上記の表のうち、職業指導員・生活支援員の配置数についてはあくまで最低限の水準になります。
条件3:設備基準を満たす
就労移行支援事業の設備基準には、就労移行支援事業を開業・運営するにあたって必要な設備が定められています。
開業前に行う指定申請では、設備・備品などの一覧表や建物の平面図などを通して、設備基準をクリアできているかどうかが審査されることになります。
就労移行支援事業の設備基準に定められている設備や備品は以下です。
| 設 備 | 要 件 |
|---|---|
| 訓練作業室 | サービス提供に支障のない広さを備えること。大阪市は利用者一人当たりの面積が約3.0㎡。最低定員が10名であることから訓練指導室の最低面積は30㎡が必要。※ 令和6年度報酬改定で、最低人員が20人から10人に変更されました。 |
| 相談室 | プライバシーに配慮できる空間にすること |
| 多目的室 | 相談室と兼務も可能 |
| 洗面所・トイレ | トイレ手洗いと洗面所の兼用は不可 |
| 事務室 | 鍵付き書庫 |
上記の表は厚生労働省が定めている基本的な設備基準の内容や考え方になりますが、さらに細かいルールや条件については自治体によって違いが見られるので、物件を決める前に事前に確認できると安心です。
運営基準を満たす
就労継続支援A型を運営するためには、サービスの利用にあたっての留意事項や緊急時における対応方法などの運営規程を定めておく必要があります。
定めなければならない運営規程には以下のようなものがあります。
【事業の運営についての重要事項に関する運営規程】
- 内容及び手続の説明及び同意
- 個別支援計画の作成、評価等を通じた個別支援
個別の利用者について、アセスメント、個別支援計画の作成、継続的な評価を行います。 - 法の理念に沿ったサービスの提供
障害種別に関わらずサービスを提供するという法の理念を踏まえつつ、サービスの専門性の確保の観点から必要がある場合には、「主たる対象者」を定めることも可能です。 - 定員の取扱い
事業所における3ヶ月以内の平均実利用人員が、定員を超えて一定の範囲内であれば、利用者を受け入れることが可能です。 - サービス提供時間
24ヶ月以内を標準とする。 - 工賃の支払い
事業収入から必要経費を控除した額を工賃として支払う。 - 職場実習
個別支援計画に沿って職場実習を実施できるよう実習の受入れ先を確保する。 - 求職活動支援・職場開拓
公共職業安定所、障がい者就業・生活支援センター等関係機関と連携し利用者が行う求職活動を支援しなければならない。 - 職場定着のための支援
利用者の職場定着を促進する観点から、利用者が就労した後、定着するまでの間、定期的に連絡・相談等の支援を継続しなければならない。 - 利用者負担の範囲等
食費、水光熱費、日用生活費等について利用者から徴収することができます。 - 虐待防止に対する責務
虐待の防止、虐待を受けているおそれがある場合の措置等、事業者の責務を明確にしなければなりません。 - 複数の事業を組み合わせて実施する場合の取扱い
複数の事業を組み合わせて一体的に運営する多機能型の事業運営する場合、その位置づけを明確にする。
など以上のことは、「運営規程」に定める必要があります。
就労移行支援事業の収益構造

就労継続支援A型では、サービス提供を行った対価として得る「障害福祉サービスの報酬」が主な収入になります。障害福祉サービスの報酬の構造は、
- 基本報酬
- 加算・減算
に分類することができます。
基本報酬に対して加算や減算の項目を加減した金額を算出し、負担割合に応じてサービス利用者の方と国保連(国民健康保険団体連合会)に対して請求を行うことになります。
まず「1.基本報酬」について、就労移行支援事業の報酬単価を算出します。
基本報酬
基本報酬就労移行支援事業の報酬は、利用者が就労後に6ヶ月以上定着した割合に応じて決められています。新規指定の事業所に関しては、最初の2年度間は「3割以上4割未満」とみなす決まりです。
報酬には2種類あり、「一般型」「養成施設型」の2つのタイプがあります。
【就労移行支援事業の2つの報酬単価】
- 一般型:就労移行支援サービス費(Ⅰ)
一般型は、利用者を通所させてサービスを提供した場合、または施設入所支援を併せて利用する者を支援した場合に算定します。 - 養成施設型:就労移行支援サービス費(Ⅱ)
養成施設型は、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成施設として認定されている指定就労移行支援事業所がサービスを提供した場合に算定します。
就労移行支援サービス費(Ⅰ)
一般型では、就労移行支援サービス費(Ⅰ)という報酬形態になります。利用定員と定着率に応じた報酬単価は下記のとおりです。
| 利用定員数\就労定着者率 | 5割以上 | 4割以上5割未満 | 3割以上4割未満 | 2割以上3割未満 | 1割以上2割未満 | 0割以上1割未満 | 0割 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 20名以下 | 1,128単位 | 959単位 | 820単位 | 690単位 | 557単位 | 507単位 | 468単位 |
| 21名以上40名以下 | 1,035単位 | 863単位 | 725単位 | 631単位 | 506単位 | 448単位 | 414単位 |
| 41名以上60名以下 | 1,003単位 | 838単位 | 693単位 | 593単位 | 497単位 | 428単位 | 395単位 |
| 61名以上80名以上 | 948単位 | 797単位 | 646単位 | 544単位 | 476単位 | 400単位 | 369単位 |
| 81名以上 | 915単位 | 760単位 | 607単位 | 498単位 | 460単位 | 374単位 | 346単位 |
【一般型の就労定着率の計算方法】
就労定着率=前年と前々年の利用者で半年以上定着した合計人数÷前年と前々年の利用定員数の合計
就労移行支援サービス費(Ⅱ)
養成施設型では先ほどの一般型とは内容が異なり、はり師・あん摩マッサージ指圧師・きゅう師の特定の免許取得支援を行います。就労移行支援サービス費(Ⅱ)という報酬形態になり、報酬単価は下記のとおりです。
| 利用定員数\就労定着者率 | 5割以上 | 4割以上5割未満 | 3割以上4割未満 | 2割以上3割未満 | 1割以上2割未満 | 0割以上1割未満 | 0割 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 20名以下 | 736単位 | 625単位 | 535単位 | 450単位 | 363単位 | 330単位 | 305単位 |
| 21名以上40名以下 | 679単位 | 568単位 | 477単位 | 415単位 | 333単位 | 295単位 | 273単位 |
| 41名以上60名以下 | 645単位 | 541単位 | 446単位 | 384単位 | 320単位 | 277単位 | 254単位 |
| 61名以上80名以上 | 638単位 | 535単位 | 435単位 | 366単位 | 320単位 | 268単位 | 248単位 |
| 81名以上 | 633単位 | 526単位 | 421単位 | 345単位 | 319単位 | 259単位 | 240単位 |
【養成施設型の就労定着率の計算方法】
就労定着率=前年度において半年以上就職先に定着している人数÷前年の利用定員数
主な加算・減算(一部抜粋)
次に「2.加算・減算」を基本報酬に足します。
| 初期加算 | 新規利用者が利用開始日から起算し30日以内に利用した場合に加算 |
| 通勤訓練加算 | 利用者を自宅等に自動車で送迎した場合に加算 |
| 欠席時対応加算 | 利用予定がある日に急病等でキャンセルがあった場合に利用を予定していた日の前々日、前日、当日にキャンセルの連絡があった場合に加算 |
| 視覚・聴覚言語障害者支援体制加算 | 視覚や言語機能などにおける重度の障がいがある方が一定数以上利用しており、意思疎通に関する専門職員を一定以上配置されている場合に加算される。 |
| 減 算 | 内 容 |
| サービス提供職員欠如減算、サービス管理責任者欠如減算 | サービス管理責任者、世話人、生活支援員が人員基準を満たすことができない場合に減算 |
| 個別支援計画未作成減算 | 個別支援計画の作成が行われていない場合に減算 |
| 定員超過減算 | 定員を一定割合で超過した場合減算 |
①基本報酬+②加算・減算×地区級地=算定報酬 となります。
就労移行支援事業所の開設する流れ

就労移行支援事業所を開設する際の流れを確認しましょう。
株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人といった法人格を取得する必要があります。
就労移行支援事業所の開業には、法人設立費、物件準備にかかる費用、内装施工費、人件費などで、一般的な目安としては開業資金として300〜900万円程度、運転資金として月200万円程度が必要と考えるといいでしょう。開業に必要な資金を自分の貯蓄だけで準備できない場合は、金融機関などから借り入れを受けるケースが多いです。
就労移行支援事業所の利用定員に対する面積や設備基準を満たすことができる物件を探します。
就労移行支援事業所として「指定」を受けるためには、人員基準を満たさなければなりません。そのため、指定申請を行う前の段階で、求人を行い、従業員を採用しておく必要があります。
就労移行支援事業所を開業するためには、「指定申請」という手続きを行い、管轄の自治体より許認可を得る必要があります。
就労移行支援事業所を開業する際に必要な書類の例をご紹介します。
【就労継続支援A型の指定申請書類の例】
- 指定協議事前調査シート
- 事業計画書
- 支援方法・組織体制の内容
- 収支予算書
- 運営規定
- 事業所一覧
- 社会福祉施設等における耐震化状況調査票
- 社会保険及び労働保険の加入状況にかかる確認票
- 法人登記簿謄本
- 誓約書
自治体によって必要な書類が異なる場合もあるので、詳しくは管轄の自治体の窓口やホームページで確認するようにしましょう。
開業する日が決まったら、開業日に向けて、事業所紹介用のパンフレットや名刺、ホームページなどを作成し、サービスを利用する方々の獲得を目的にした集客を開始しましょう。
よくある質問

就労移行支援事業所の特徴、開設についてよくある質問をまとめました。
まとめ

いかかでいたか?就労移行支援の開業・立ち上げるための、「就労移行支援事業を開業するにはどのような準備が必要なの?」や「事業所を立ち上げるための条件や必要な資格は何?」などといったお悩みを少しで解決できたでしょうか。
今回の記事を読んで難しいなと感じた方は、相談できる専門家として障害福祉を専門としている行政書士もいますので、是非一度相談から始めてみてはどうでしょうか?

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