知らずにやると返還!「施設外就労」の必須要件と記録の落とし穴

こんにちは。 大阪で、障害福祉サービス専門の行政書士事務所開業に向けて準備中の「くまくま相談事務所」です。
就労継続支援を運営する中で、「施設の中での内職作業だけでは、高い工賃を支払えない」「もっと社会と関わる実践的な訓練を利用者様に提供したい」とお考えの事業主様は多いでしょう。 そこで活用されるのが、企業から清掃作業や農作業、物流倉庫でのピッキングなどを請け負い、事業所の外に出向いて作業を行う「施設外就労」です。
しかし、この施設外就労、実は実地指導(運営指導)において運営指導担当が「最も厳しくアラ探しをする項目」の筆頭です。 なぜなら、施設外就労は「事業所の目の届かない場所」で行われるため、利用者様が不当な労働をさせられたり(偽装請負)、放置されたりするリスクが高いからです。
行政は、事業所がルール(要件)を一つでも満たしていないと判断した場合、その日、その月に行われた施設外就労の基本報酬を「不正受給」とみなし、過去に遡って返還を命じられることもありえます。
今回は、事業主様が絶対に知っておくべき「施設外就労の4つの必須要件と落とし穴」を徹底解説します。
✅ この記事を読んでわかること
- 【落とし穴①:契約の罠】 「口約束」や「派遣」は即アウト!適法な「請負契約書」の結び方
- 【落とし穴②:計画と配置の罠】 監査で必ず見られる「事前計画書」と「スタッフの同行ルール」
- 【落とし穴③:記録の罠】 毎日必須!返還金を防ぐ「施設外就労実施記録」の正しい書き方
落とし穴①:契約書がない、または「偽装請負」になっている

施設外就労を行う上で、企業(発注元)との書面による契約は「絶対条件」です。「知り合いの農家だから口約束で手伝っている」という状態は、その時点でアウト(全額返還)です。
さらに恐ろしいのが、契約書を作っていても「偽装請負(実質的な労働者派遣)」とみなされるケースです。 障害福祉サービス事業所は、原則として「労働者派遣事業」の許可を持っていません。したがって、契約の形態は必ず「請負契約」または「業務委託契約」でなければなりません。
【運営指導で「偽装請負(派遣)」とみなされるNG例】
- 作業の指示を、事業所のスタッフではなく「発注先の企業の社員」が直接利用者様に出している。
- 契約書に「1時間〇〇円で人を貸します」というような、労働時間に対する単価設定がされている。
- 欠勤者が出た場合に「〇人足りないから代わりの人を連れてきて」と企業から人員の補充を要求される。
【適法な「請負契約書」にするための鉄則】 請負契約とは「仕事の完成(成果物)に対して報酬が支払われる」契約です。 契約書には以下の項目を必ず明記してください。
- 業務の具体的な内容と範囲(例:「〇〇マンションの共有部清掃一式」)
- 業務の単価(時間給ではなく、「1件〇〇円」「1平米〇〇円」といった成果物に対する単価)
- 指揮命令系統(「作業の指示、勤怠管理、安全管理はすべて『事業所の職員』が行う」と明記する)
- 単価の見直し規定(最低賃金の上昇などに伴い、年度ごとに単価交渉ができる旨の記載)
落とし穴②:事前の「個別支援計画」が記載されていない

「明日から仕事が取れたから、AさんとBさんを連れて行こう!」 施設外就労は、このように思いつきで実施してよいものではありません。
施設外就労を実施するためには、事業所として「施設外就労に関する計画書」をあらかじめ作成し、施設外就労実施報告書を提出する必要があります。(※自治体によっては、事前に役所へ提出・届出を求めている場合もあります)。
そして何より重要なのが、「利用者様個人の『個別支援計画』に、施設外就労を行うことが明確に位置付けられているか」です。
- 施設外就労の現場にいる利用者様の個別支援計画を見たら、「施設内での軽作業を通じて集中力を養う」としか書かれていない。
- 「本人の希望や課題に対して、なぜ施設外就労が必要なのか」というアセスメントの記録がない。
運営指導担当は、「個別支援計画にない支援(作業)を行っている=不適切な支援」と判断します。施設外就労に参加する利用者様については、必ず事前に担当者会議を開き、計画書を見直して本人の同意(署名)を得ておく必要があります。
落とし穴③:スタッフの「同行ルール」と「配置基準」の罠

施設外就労における最大のルール、それが「事業所の職員(生活支援員または職業指導員)が、常に利用者と同行し、現場で直接支援を行わなければならない」という点です。
【 やりがちな同行ルールの違反】
- 利用者様だけを現場のスーパーに車で送り届け、スタッフは事業所に帰ってしまった(放置)。
- スタッフが同行しているが、納期に間に合わせるためにスタッフ自身が必死に清掃作業をしており、利用者様の「支援・指導」を全くしていない。
施設外就労の現場において、スタッフの役割は「作業の戦力」ではなく、あくまで「利用者様のサポート(指導・見守り・体調管理)」です。スタッフが作業員化しているとみなされると、指導の対象になります。
落とし穴④:毎日必須!「施設外就労実施記録」のスカスカ問題

適法な契約を結び、計画を作り、スタッフが同行した。 それでも、実地指導で返還を命じられる事業所があります。その原因が「記録の不備」です。
施設外就労を行った日は、施設内での支援記録とは別に、「施設外就労実施記録」を毎日必ず作成しなければなりません。
これでは、「誰が参加したのか」「誰が同行したのか」「利用者様はどのような様子だったのか」が全く分かりません。行政のルールでは「記録がないものは、やっていないのと同じ」です。
【 監査官が納得する「実施記録」の必須項目】 以下の項目を網羅したフォーマット(ひな形)を事業所で作成し、同行したスタッフに毎日記入させる仕組みを作ってください。
- 実施年月日と時間(移動時間は除き、純粋な作業開始〜終了時間)
- 実施場所と請負先企業名
- 作業内容の詳細
- 同行した職員の氏名
- 参加した利用者様の氏名と、それぞれの作業時間
- 利用者様ごとの「訓練目標に対する評価・様子」(例:「A様、今日は休憩を自分から申し出ることができ、集中して作業に取り組めていた」など、個別支援計画と連動した評価)
よくある質問(Q&A)

まとめ:どんぶり勘定の施設外就労は「事業存続のリスク」

施設外就労は、工賃向上と利用者の成長に欠かせない素晴らしい仕組みです。 しかし、「契約」「計画」「同行」「記録」の4つのうち、どれか一つでも欠ければ、それは単なる「労働力の安売り」や「違法な派遣」とみなされ、数万円の返還金という最悪の結末を招きます。
事業所の利益を守り、利用者様に安全な訓練環境を提供するためには、現場のスタッフ任せにするのではなく、管理者や経営者が「仕組み(フォーマットやマニュアル)」をしっかりと作り込むことが不可欠です。




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