今回の記事も相続にまつわる知識について書いていきます。相続実務の記事になります。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、相続分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。
今回は相続時のトラブル事案をご紹介したいと思います。事案を知ることでよりリアルな相続問題とトラブル解決のイメージが付くようになると思います。(今回の事案は個人情報のため少し加工をしております。)
この記事を読むことで相続の事例を通してより具体的なイメージが付ければと思います。
母と親子関係がなく、相続人が21人に!?
ことの始まりは、「母が亡くなったので、不動産の相続登記をしてほしい」と、68歳のAさんから依頼があったことから始まります。不動産の名義は自分と母親との共有名義で、母亡き後は妻との二人暮らし。相続人は自分だけとのこと。簡単な相続登記のはずでした。(某司法書士さん)
家系図
Aさんの話では父は早くに亡くなっており、兄弟はおらず、母が亡くなったため、相続人はAさんのみということでした。
初回面談の内容
Aさんはとても話好きで、亡母の思い出をたくさん話していました。父は早くに亡くなっており、母親は女手一つでAさんを育ててくれました。自分を育てるため朝から晩まで働き続きてくれたこと。Aさんが結婚により一人暮らしになった母親。でもAさんは将来また母親と一緒に暮らし、親孝行をしたいと考えていたようです。そしてAさんの子どもが巣立ったときに、Aさんは母親の住む実家を増築し、母親と同居を再開。この時に不動産の名義を母親と共有名義にしたそうです。やがて母も高齢となり、介護が必要となりましたが、Aさんは最後まで自分の手で母親の面倒をみたいと自宅介護を行い、母親の最後を看取ったそうです。初回の面談ではこのようなエピソードを話してくれました。
後日戸籍を調べると…
相続登記のため、まずは戸籍を取り寄せました。
「あれ、Aさんのお母さんの名前が違う?お母さん、子供を産んでいない??」すべての戸籍を揃えて知り得た事実は「母親とAさんは親子ではなかった」ということでした。Aさんの実母は産後すぐに亡くなっており、父親はその後まもなく再婚。Aさんの母親は、父親の再婚相手だったのです。母親の相続人はAさん一人だったはずが、Aさんは相続人ではないばかりか、全国各地に甥や姪を合わせて21人もいることが判明しました。母親は9人兄弟だったのです。
実際の家系図
2回目の面談
この事実を知ったらAさんはどれほど悲しむかと考えていましたが、Aさんはすでに役所から「母親とは法律上親子関係がなく赤の他人ですよ」と教えられたそうです。Aさんは母親とは親子関係がなく、さらには母親の相続人が21人いるという事実を次々とつきつけられたのです。母親は婚姻後実家とは疎遠になっておりAさんは母親に兄弟姉妹がいることすら聞かされていませんでした。
もし、母親が遺言書をのこしていれば…もし母親とAさんが養子縁組しておけば…母親は自分が亡くなった後こんなことになっているとは思いもしなかったはずです。母親もきっと我が子のようにAさんを一生懸命育ててきたため実の親子ではない事実を忘れていたのかもしれません。
しかし、実際は親子関係がないAさんは遺言書もなく養子縁組をしていなかったため、母親と過ごした家を守るために会った事もない相続人21人と交渉しなければならなくなりました。母親は結婚後兄弟姉妹とは疎遠になっていたためAさんの存在を知らない相続人もたくさんいました。このような状況で交渉は難航を極めました。
Aさんの交渉秘話
このような困難な事例でもAさんは相続人21人に印鑑を押してもらうことができました。
Aさんが21人の生き方も考え方もバラバラな相続人に印鑑を押してもらうことが出来たのか。それは、個別の話し合いの中で母親(被相続人)とAさんが紛れもない親子関係、今まで築いてきたゆるがない歴史を伝えたからです。もちろん相続財産があまり多くなく、争ったところで仕方がないという面もあるかもしれませんが、相続の現場では法律よりもお金よりも、1人の人間の、あるいはその家族の生き方、歴史を伝えることで確かにそうあるべきだと理解してくれる相続人も少なくありません。
一方で、本件は遺言書を作成していたり、養子縁組を行ってればとてもシンプルに手続きすることが出来たのも事実です。事前に確認しておくことはとても重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回の事案は簡単な相続から始まり、実際の調査を行っていくと相続関係が変わってしまうといった事案になっています。法定相続人の知識や戸籍を調査し相続人を確定させる重要性が分かります。その上で、遺言書があれば法定相続に関わらず相続できるといった点や、母親との養子縁組などを行い親子関係を法的に作ることによって相続関係を発生できるといったことが分かると思います。また、遺言書がない場合には、相続人全員に対し遺産分割協議を行わなければなりません。そのためAさんは21人もの相続人に対し、遺産分割協議書に印鑑をもらい不動産の相続をAさん単独にすることにしたのでしょう。この事案を通して相続の流れや、どんなトラブルが考えれるのかをイメージすることが出来ますね。
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