【市民法務:契約書の作成/トラブルに備える条項】~行政書士試験合格者が解説~

市民法務関係

今回の記事も行政書士の市民法務業務について書いていきたいと思います。行政書士の業務には、権利義務に関する書類の作成とその代理・相談というものがあります。その権利義務に関する書類の中で、契約書の作成と内容証明書についての記事を書いていきます。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、市民法務分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。今回は前回に引き続き、契約の中身に記事を書きたいと思います。前回までは何を履行するかといった内容でしたが、今回からは契約におけるトラブル対策についてどのような条項を設けるのかについて説明します。この記事を読むことで契約書の作成にトラブルを想定し事前に備えることが出来ます。

契約書の基本的な構成

改めて契約書の構成について確認しましょう。契約書は、作成するか否かも当事者の自由であるため、各条項をどのような順序で記載するのかは何ら法律上の決まりはありません。
しかし、実際は一定の考え方、ルールのもとで各条項が記載されていることが通常です。条項は3種類に分けて、その順序で記載 していくという考え方があります。

①この契約において何をするのか(当事者の履行すべき内容)の部分
②トラブルを予防したり、トラブルに備える部分
③一般条項(どの契約においても、同じような内容が定められている部分)

前回までの記事で①「この契約において何をするのか」(当事者の履行すべき内容)を定めている部分の各条項についてはご紹介しましたので、再度ご確認下さい。

今回は②契約当事者間のトラブルを予防したり、トラブルが生じたときに備えるための各条項について説明します。実際にトラブルが生じることを予測してこれに対応する条項を設けておくことは極めて重要です。契約の効力に関する条項や、契約の履行に何らかの問題が生じた場合に備える条項などが記載されます。

トラブルに備える具体的な条項
第〇条(危険負担)
本件土地の引渡し前に甲、乙いずれの故意、過失によらずして本件土地の一部、
また全部が滅失または毀損した場合は本契約は効力を失い、甲は手付金および預
かった金員全額を遅滞なく返還しなければならない。
②公用徴収、建築制限、道路編入等の負担が課せられたときも同様とする。
印紙
第 〇条(契約解除)
甲、または乙の債務不履行により本契約が解除された場合、乙の債務不履行に
よる時は、乙は手付金を没収されても異議なく、甲の債務不履行による時は
甲は手付金の倍額を乙に返還しなければならない。

これらの条項は、契約の種類を問わずさまざまな種類の契約書において見ることが多い条項となっています。その定め方にはさまざまな書き方があり定めたくないと考える場合もあります。 このため、狭義の一般条項とは異なり、 契約の種類やその内容等を踏まえてトラブルに備える条項を定める必要があるのか、定めるとしていかなる内容 の条項を定めるべきか、という点を検討する必要があります。

③一般条項(どの契約においても、同じような内容が定められている部分)については今後の記事でご紹介します。

トラブルに備える条項の種類

契約の効力の存続に関する条項には、 契約期間(有効期間)に関する条項と、 契約の効力を一定の場合に消滅させることに関する条項があります。
契約期間(有効期間)に関する条項は、一回きりの履行を前提とした契約(例えば、不動産の売買契約など)では通常は定められませんが、継続的な履行を想定した契約(賃貸借契約や販売委託契約など)においては定められることが通常です。なお、合わせて途中で終了させる中途解約に関する条項を定めることもあります。

例:契約期間に関する条項
本契約は、本契約締結日から1年間とする。ただし、契約期間が満了する日の3カ月前に、当事者のいずれからの書面による申し入れが行われなかった場合には、本契約は従前と同一の条件で1年間更新されるものとし、以降も同様とする。

契約の履行に問題が生じた場合に備える条項には、債務履行の担保に関する条項や、目的物に何らかの問題がある場合にどのような責任を負うのかという契約不適合に関する条項や目的物について供給側が保証をする条項などがあります。また、契約当事者ではない第三者からクレーム等がなされたり、 第三者の知的財産権を侵害している旨の連絡が来た場合に関する条項を定めておく場合もあります。

例:品質保証
売主は、売買目的物について、買主の指示・指定する使用に合致しており、かつ、買主の指示・指定する品質及び性能を満足していることを保証する。また、売主は、売買目的物がその用途に応じて適用される法律、条令その他の公の規格を満たしていることを保証する。
2売主が前項に違反したことにより、買主に損害が生じた場合には、売主はその損害を賠償する。

契約期間に解除項目を設ける

契約書では、契約期間(契約の有効期間)を規定する条項を定めることがあります。基本的に、契約はその契約で規定した契約期間中はずっと有効であり、契約当事者全員が途中契約を終了することに合意しない限り、契約期間満了まで効力を失いません。そのため、契約期間に関する規定は、契約で定めた権利や義務が、いつからいつまで存続するのかを定める重要です。特に、長期にわたる契約を締結しようとする場合には注意が必要となります。なぜなら契約期間中は、契約で定めた義務を負担し続けることになります。契約を締結した後で契約を終了させたいと思っても、当事者全員が同意しない限り終了させることができません。すると契約上の義務を負い続けなければならないことになってしまいま す。そのため、長期間にわたって、契約を存続させたい場合には短期の契約とし自動更新条項を定めることや中途解約条項を設けることを検討すると良いでしょう。

中途解約

契約は期間を通じて有効に存続し、契約期間の途中では契約当事者全員で契約を解約する合意をしたり、相手方の責めに帰すべき事由などにより解除権が発生したり、契約を存続し難い客観的な事情がない限り終了させることはできません。しかし、当事者の都合で契約を途中で終了させたい場合を想定して、何ら相手方の責に帰すべき事由がなく、契約を存続し難い客観的な事情がない場合でも、当事者の一方的な意思表示によって将来に向かって終了させることができるようにするため、中途解約条項が設けられることがあります。
中途解約はメリットもありますが、契約期間が早期に終了してしまうために期待していた利益が得られなくなってしまうといった不都合が生じる場合があるため注意が必要です。

例:中途解約
1本契約の契約期間は、本契約締結日から5年とする。
2前項に関わらず、甲又は乙は6ヵ月前に予告すること、又は○○円の解約金を相手に支払うことにより、本契約を解約することができる。

契約の解除

中途解約時にも言いましたが、契約は期間に合意している場合には契約期間が終了するまで存続することになります。しかし、相手方による義務の履行が期待できない場合には、契約を存続させる意味がありません。そのため一定の場合には、解除権を行使し契約を途中で終することになります。
民法では、一般に契約で約束した義務を相手方が履行しない場合には、 相手方に義務を履行するよう催告し、その上で契約を解除できると定められています。 また、義務の全部の履行が不能である場合などには、催告をせずに解除をすることができると定められています。
契約を解除すると、基本的に契約が締結時に遡って締結されなかったと扱われることになると考えられていますが、継続する契約の場合は、将来に向かって効力が生じる場合もあります。
契約書では、民法の解除の規定とは異なる規定を置き解除権の内容をより拡充あるいは制限することがあります。例えば、民法では相手方が契約で定めた義務を履行しない場合、催告をしなければ解除できませんが、契約書に催告することなく契約解除を可能にする条項を置くことによって手間を省くことができます。また、民法では解除が可能とされていない事由についても、契約の解除を可能にする規定を置くことも可能です。

例:(解除)
甲又は乙は、相手方の次の各号の一に該当する事由が生じたときは、催告なしに本契約を直ちに解除することができる。
①本契約条項に違反した時              …義務違反があった場合の無催告解除
②破産手続きの開始                       …信用不安の場合の解除
③支払い不能若しくは支払い停止又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
④仮差押え、仮処分、強制執行又は競売の申立てがあったとき
➄公租公課の滞納処分を受けた場合

契約不適合とは

物や権利等を供給する契約(売買契約や請負契約など)において、供給される物や権利が、当初の契約の内容に照らして、種類、品質、数量が十分でない場合を「契約不適合」といいます。 そのとき、供給者(売主・請負人)が負うのが契約不適合責任です。
提供された目的物や権利に契約不適合がある場合、民法では買主・注文者は、①履行の追完、②代金減 額、③損害賠償、④解除を請求することができます。契約不適合責任には、法律上行使できる期間が決まっています。
まず、契約不適合責任(目的物の「品質や種類」に関する事項)については「買主が不適合を知ったと き」から1年以内に通知しなければ、 権利が消滅すると規定されています。さらに、商人間の売買契約には、商法526条による期間制限があります。買主は受領した目的物の検査をする義務があり、そこで発見される契約不適合は直ちに通知しなければ以後責任を追及できません。その後に見つかった契約不適合も6カ月以内に通知しないと責任を追及できなくな ります。また、民法上の消滅時効も適用される場合があり、「権利を行使することができることを知ったときから5年」または「権利を行使することができるときから10年間」のいずれか早い時点で権利が消滅します。

契約書での契約不適合責任

民法に規定された内容の契約不適合責任で十分の場合には、契約書に契約不適合責任に関する定めをおかなくても問題ありません。契約書に記載する必要があるのは、 契約不適合責任の内容を民法の規定から変更したい場合です。民法に定められた契約不適合責任の内容を受領者に有利に拡充したり、反対に供給者に有利に縮減したり、ひいては責任をなくしたりするために条項を定めることができます。

例:契約不適合責任を負わない特約
本契約において売主は買主に対して、目的物を現状有姿で引き渡せえば足りるものとし、売主は買主に対して契約不適合を追わないことを確認する。

例:契約不適棒責任の履行方法を買主が指定できる条項
売主の引き渡した目的物の種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである時は、買主は自己の選択により、売主に対し目的物の修補、代替物の引渡し若しくは不足分の引渡しによる履行の追完または代金減額請求をすることができる。

損害賠償請求とは

民法では、契約をした相手方が契約で定めた債務を履行しない場合や相手方の故意または過失がある場合などいわゆる債務不履行がある場合に、その損害を被った側が契約をした相手方に対して、損害賠償請求をすることができると定めています。なお、契約不適合のある目的物や権利を渡すことも、 債務不履行の一種と考えられており、契約不適合責任追及の1つの方法としても買主は損害賠償請求権の行使が出来ます。
損害賠償の場面で問題になるのは損害額の算定です。裁判となった場合、被害を受けた当事者が損害額を立証する必要があり、 立証に成功した損害額について損害賠償が認められます。しかし、損害額の立証は難しいことも多くあります。そのため、裁判においてそのような立証をする手間を省き確実に損害賠償を獲得できるようにするために、あらかじめ契約書に当事者の一方に債務不履行があった場合の損害額を定める条項、あるいは、債 務不履行により損害が生じた場合に損害額の算定ルールを定める条項を設けることが出来ます。

契約書での損害賠償請求

損害賠償責任を負う場合、債務を履行する側は、債務不履行の内容によっては連鎖的にさまざまな損害が発生し、場合によっては際限なく損害賠償責任を負うことになりかねません。そこで、債務を履行する側を保護するため、契約書に損害賠償の上限額に関する規定を定める場合があります。 これにより債務の履行者は自分の負う責任の範囲を事前に見積もることが容易になります。契約書に、代金額を損害賠償の上限として、仮に債務不履行があっても自分が受け取った代金以上の損害賠償は支払わないとする条項を設けるがあります。

例:不履行の違約金
売主が本契約第〇条で定める期限までに買主へ目的物を引き渡さない場合、売主は買主に対して、当該期限の翌日から引渡し完了するまで、一日あたり○○円の損害を支払わなければならない。

また債務不履行があった場合に間接損害・逸失利益を免責す規定を契約書に定めるこもがあります。
間接損害とは直接の被害者ではない者に派生して生じる損害(被害会社の グループ会社に生じた損害など)を意味します。逸失利益とは「債務不履行がなければ、得られたはずの利益」を意味します。例えば、AがBにある商品を売買する契約において、Aが期限までに商品を引き渡さずにBが商品を転売できず、利益を得ることができなかったという損害が「逸失利益」です。民法の損害賠償の規定に基づく場合、 間接損害や逸失利益についても損害賠償の対象となってしまうことがあります。間接損害・逸失利益を損害賠償に含めると損害賠償額が大きくなるため、 債務を履行する側を保護して、これらを損害賠償の範囲から除くと規定する条項が実務上よく見られます。

例:損害賠償の上限を定める条項
各当事者の負う責任は、金○○円を上限とする。ただし、損害賠償を負う当事者の故意または重過失がある場合には、この限りではない。

例:間接損害・逸失利益を除外する条項
契約の当事者の一方が本契約に基づく債務を履行しない場合、相手方は直接かつ現実に生じた通常の損害(間接損害・逸失利益等を除く)に限り、損害賠償請求をすることができる。

まとめ

今回は契約書の中でトラブルに備える条項について全体的な説明をしました。

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