【市民法務:契約書の作成/売買契約書】~行政書士試験合格者が解説~

市民法務関係

今回の記事も行政書士の市民法務業務について書いていきたいと思います。行政書士の業務には、権利義務に関する書類の作成とその代理・相談というものがあります。その権利義務に関する書類の中で、契約書の作成と内容証明書についての記事を書いていきます。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、市民法務分野に興味がある方に向けて記事を書いていきます。今回は、契約書の中で一番有名な売買契約について記事を書きたいと思います。この記事を読むことで売買契約書の必要な知識が得られます。

売買契約とは

売買契約とは、一方の当事者(A) が、他方の当事者 (B) に対して財産権を移転することを約束し、それに対して他方の当事者(B)が一方の当事者(A)にその代金の支払いを約束することによって効力が生じる契約をいいます(民法555条)。この場合、Aが 売主、Bが買主となります。
売買契約において移転する財産権は、 通常は所有権です(所有権以外の財産権としては、地上権等の物件、債権などが挙げられます)。このため、売買代金の支払いと、財産権の移転が、売買契約の主要な要素といえます。なお、売買契約は典型契約であり、民法555条以下において、売買に関する規定が置かれているほか、商人間の売買に関しては、商法524条以下に特則が定められています。
売買契約において重要なことは、売主が買主に対して移転する財産権の内容の特定です。この財産権には原則として制限はなく、有体物にも限られません。通常の所有権の移転の場合では、 売買取引の対象となる物がどれか明確にわかるように、契約上移転しようとする「物」を特定する必要があります。

売買契約書の条項例

例:土地売買契約書

○○○○(以下、「売主」という。)と××××(以下、「買主」と いう。)とは、次のとおり土地売買契約を締結する(以下、「本契約」という)。

目的物

第1条 売主は、その所有にかかる別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土 地」という。)を買主に売り渡し、買主は本件土地上に高齢者施設を建築する目的でこれを買い受ける。

目的物を明記しましょう。今回は高齢者施設を建設するための土地を売買契約します。

売買代金

第2条 本件土地の売買代金は、金○○○円(消費税別)とする。
2 前項に定める売買代金は、別紙物件目録記載の登記簿謄本に表示された面積 (○○.○○㎡)に1㎡当たり金○○○円を乗じて算出したもの(1円未満は切り捨て)であるところ、第3条に定める実測調査の結果、別紙物件目録記載の登記簿謄本に表示された面積と比較して増減が生じた場合には、この1㎡当たり金 ○○○円の基準を用いて精算 (1円未満は切り捨て)するものとする。 但し、この精算は、第4条②に定める最終の支払時に行うものとする。

売買代金について定めます。消費税についてはどうするかしっかりと話しておきましょう。

実測調査

第3条 契約締結後、売主は速やかに自己の責任と費用に基づいて、本件土地の測量を行う。
2 売主は、前項に定める測量を行った後、第4条①に定める中間金の支払時までに、本件土地の全ての隣接地の所有者との間で境界確認を完了し、それら全ての隣接地の所有者からかかる境界について異議のない旨の書面を受領して、買主に交付しなければならない。これらの費用についても売主の負担とする。

支払時期

第4条 買主は、売主に対し、第2条第1項に定める売買代金について、次のとおり支払うものとする。
① 買主は、売主に対し、中間金として、令和□年◇◇月末日限り、第7条第1 項に定める所有権移転仮登記申請手続に必要な一切の書類の交付を受けるのと引き換えに、金○○○円を売主の指定する銀行口座宛に振り込む方法により支払う。なおこの中間金は、本条②の残代金支払時に、売買代金の一部に充当するものとし、利息を付さない。
② 買主は、売主に対し、第2条第1項に定める売買代金の残代金として、令和〇年◇◇月末日限り、第6条第1項に定める所有権移転登記申請手続に必要な一切の書類の交付及び第8条第1項に定める本件土地の引渡しを受けるのと引き換えに、金○○○円を売主の指定する銀行口座宛に振り込む方法により支払う。また、第2条第2項又は第13条に定める精算が行われる場合には、あわせてこれを行う。

支払い時期は重要な部分です。いつどのような方法で支払うのか、手付金や同時履行の支払いなど意識ましょう。

所有権の移転

第5条 本件土地の所有権は、第4条②に定める売買代金の残代金の支払がなされるのと同時に、売主から買主に移転する。

所有権移転登記

第6条 売主は、第4条②に定める売買代金の支払を受けるのと引き換えに、本件土地について所有権移転登記申請手続を行うために必要な一切の書類を買主に交付する。
2 前項の所有権移転登記手続に要する登録免許税その他必要な費用は、全て買主の負担とする。

所有権移転仮登記

第7条 売主は、第4条①に定める売買代金の中間金の支払を受けるのと引き換えに、本件土地について所有権移転仮登記申請手続を行うために必要な一切の書類を買主に交付する。
2 前項の所有権移転仮登記手続に要する費用は、全て買主の負担とする。

売主は支払い時期が重要ですが、買主にとっては移転時期が重要となります。

引渡時期

第8条売主は、第4条②に定める売買代金の残代金の支払時までに本件土地上の建物を解体撤去するとともに滅失登記を完了させた上で、同代金の支払を受けるのと引き換えに本件土地を買主に引き渡さなければならない。
2 前項の解体撤去及び滅失登記の費用その他必要な費用は、全て売主の負担とする。

保証

第9条 売主は、本件土地について、抵当権、質権等の担保物権、地上権、地役 権等の用益物権、賃借権等その他買主の完全な所有権の行使を阻害する法的な 負担・制限が存在しないことを保証する。
2 売主が前項に違反した場合には、買主に対して損害賠償責任を負う。

担保にしていないことを保証させる条項です。法的負担が付着している場合は、契約違反を理由として責任追及ができます。

土壌汚染

第10条 売主は第8条第1項に定める引渡の日までに、本件土地において、法令、 環境省令又は環境省告示の定める項目についてその基準を超える土壌汚染が存在するか否かについて、別途買主との間で合意した方法により、売主の費用及び責任で、調査を実施しなければならない。
2 前項の調査の結果、法令、環境省令又は環境省告示の定める基準を超える土壌汚染が発見された場合には、売主は第8条第1項に定める引渡の日までに、売主 の費用及び責任で、当該土壌汚染を除去しなければならない。
3 売主は、前項の除去の方法については、買主の了承を得なければならない。

目的物が土地である場合には土壌汚染があった場合の条項を設けているとトラブルを事前に対策することができます。

契約不適合責任

第11条 第8条第1項に定める引渡の日から5年の間に、本件土地に法令、環境省令又は環境省告示の定める基準を超える土壌汚染が発見された場合には、法令の規定にかかわらず、売主は速やかに、売主の費用及び責任で、当該土壌汚染を全て除去しなければならない。なお土壌汚染の除去の方法については、買主の了承を得なければならない。
2 前項の場合を除き、第8条第1項に定める引渡の後に本件土地に契約不適合(ただし、第9条に基づき売主が存在しないことを保証する法的な負担・制限を除く) が発見されたとしても、売主は買主に対してその責を負わないものとする。

契約不適合責任は売買契約でよくある条項です。

危険負担

第12条 本契約締結後、第8条第1項に定める引渡の日までに、天災地変又は不可抗力によって、本件土地の全部又は一部が毀損又は滅失した場合、この毀損等は売主の負担とする。
2 前項の毀損または滅失により本件土地の引渡しができないときは、買主は本契約を解除することができる。

民法で危険負担の考え方があり、一般的条項として入れるのもいいでしょう。

収益及び費用負担

第13条 本件土地に関する収益並びに費用負担(固定資産税、都市計画税等の公 租公課及び各種負担金等を含む)については、名義の如何に関わらず、第8条第 1項に定める本件土地の引渡時期をもって区分し、その前日までの分は売主に、引渡の日からの分は買主に属するものとし、第4条②に定める売買代金の残代金の支払時にこれを精算することとする。なお、固定資産税及び都市計画税の負担起算日は1月1日とする。また万一、第4条②に定める売買代金の残代金の支払時において精算額が確定しない収益又は費用があるときは、売主及び買主は、精算額が判明した時点で速やかに精算を行うものとする。

収益と税金の負担は前もって話し合い契約書に載せるようにしましょう。

遅延損害金

第14条、売主及び買主は、本契約に基づいて、相手方に対して支払うべき金員の支払を怠った場合には、支払うべき日から支払い済みまで年 14.6 パーセントの割合による遅延損害金を支払わなければならない。
2 売主が、第8条第1項に定める引渡の日までに、本件土地を引き渡さない場合には、売主は第8条第1項に定める引渡の日から引渡が完了する日まで、1日あた り金○○○円の遅延損害金を買主に対して支払わなければならない。

遅延による損害賠償が発生した時に、金額を決めることは極めて困難であるため事前に条項に盛り込むことで、トラブル時の対応が可能となります。

契約の解除

第15条 売主又は買主のいずれか一方が、本契約に定める義務を履行しない場合には、相手方は20日間の猶予期間を定めて催告し、猶予期間経過後も義務の履行がなされない場合に限り、本契約を解除することができる。
2 前項に基づいて本契約が解除された場合には、義務を履行しなかった売主又は買主は、契約解除に伴う違約金として、売買代金の20パーセントに相当する金員を相手方に支払わなければならない。
3 売主又は買主は、第1項の解除に伴う損害が違約金を上回る場合であっても、 違約金を超える部分については請求することができない。

損害賠償が発生した際の対応についても事前に協議しておきましょう。

契約上の地位又は権利義務の譲渡等

第16条 売主及び買主は、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約上の地位又は本契約に基づく権利義務を直接又は間接を問わず、第三者に譲渡、 質入、処分又は移転してはならない。

印紙代

第17条 本契約書に貼付する印紙代の費用は、買主が全て負担するものとする。

合意管轄裁判所

第18条 本契約に関連して生ずる売主と買主間のすべての紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的な管轄裁判所とする。

一般条項ですが、定めておくことでトラブル時の負担を減らすことにつながります

まとめ

売買契約に必要となる条項の例をいくつかあげました。参考になれば幸いです。

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