今回の記事も成年後見制度についての知識について書いていきます。成年後見事務知識の記事になります。行政書士を目指し受験されている方はもちろんのこと、行政書士の実務を学びたいと思っている方、開業準備をしている方、成年後見業務に興味がある方に向けて記事を書いていきます。
今回の記事は成年後見制度の後見監督人について解説します。成年後見人はイメージが付きやすいですが、監督人って何って思われている方もいると思います。
今回の記事を読むことで成年後見人の監督人を知っていただければと思います。
成年後見監督人とは
後見監督人とは、精神等に障害を負った人を保護するための「成年後見制度」が開始された後、後見人等に就任した人を監督する立場の人です(民法第851条1号)。被後見人のための財産管理や身上保護が成年後見人がきちんと行われているか、第三者的な立場で継続してチェックする役割を担います。成年後見制度には大きくわけて「任意後見制度」と「法定後見制度」2種類の制度があり、後見監督人はその手続きや役割が若干異なります。
- 任意後見制度で後見監督人がつく条件: 原則として無条件でつく(任意後見契約に関する法律第4条1項)
- 法定後見制度で後見監督人がつく条件: 「家庭裁判所が必要と認めるとき」または「被後見人・親族・後見人のいずれかから請求があった場合」(民法第849条)
任意後見制度での後見監督人
任意後見制度を利用する場合、必ず「任意後見監督人」が選任されます。任意後見制度は、被後見人になる人が認知症などにかかる前に、あらかじめ後見人になる人と後見契約を結んでおき、その後、被後見人が認知症などで判断力が低下することをきっかけに後見が開始されます。
この「後見の開始」は、その判断力が低下した人の家族が家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人を選任してもらうことで開始されることになっています。
ですから、任意後見制度では、後見人には必ず任意後見監督人がつくことになるわけです。
任意後見監督人の職務
任意後見監督人の主な職務は、任意後見人の監督です。任意後見人の職務は、被後見人との間で交わした「任意後見契約」にのっとって行われるべきものです。ですので、任意後見監督人は、その契約内容を良く理解したうえで、任意後見人の後見行為がその契約のとおりに正しく行われているかどうかを監督することが必要となります。
具体的には、任意後見人が行った行為の報告を求めたり、財産の調査や財産目録の作成などに立ち会ったり、また、特殊な事情がある場合にはその場で対処したりといった事務を行います。また、本人と任意後見人の利益が相反する行為(利益相反行為)を行う際には、任意後見監督人は本人を代表することになります。
任意後見監督人をつけるための手続き
任意後見監督人は、被後見人の家族等の申立てにもとづき家庭裁判所から選任を受けます。「任意後見監督人選任の申立て」といい、申立てについては次の通り定められています。
① 申立てを行うことができる人
・被後見人になる人
・本人の配偶者
・本人の4親等内の親族
・任意後見人となる人
② 申立てに必要な書類
・任意後見監督人選任の申立書
・申立書付票
・医師による診断書
・本人の戸籍謄本、住民票
・後見登記事項証明書
・ その他、各家庭裁判所が指定する書類(家庭裁判所ごとに異なります)
③ 申立て費用
任意後見監督人選任の申立てにかかる費用は、収入印紙800円、登記費用1400円のほか、郵便切手代が3000〜5000円(裁判所によって金額が異なります)がかかります。
また、本人に精神鑑定が必要な場合は精神鑑定料として別途5万円ほどの費用が必要となります。
法定後見制度での後見監督人
法定後見制度では、任意後見制度と違い、必ず監督人がつけられるというものではなく、家庭裁判所が必要と認めた場合に限り後見人等に監督人がつくことになります。家庭裁判所が、監督人が必要と認める場合には次のような場合があります。
・ 後見人が管理する財産や収入の金額が大きい場合
・ 親族間にもめごとがある場合
・ 後見人が高齢である、若い、体調に不安があるなど、後見人が頼りない場合
・ 後見人と被後見人の利害が一致しない(利益相反)状況にある場合
・ 財産状況が不確かな場合
以上のほか、被後見人の利益を守るために、家庭裁判所が後見人を監督する必要があると認める事由があるときには、監督人が選任されます。
後見監督人等の職務
法定後見制度の後見人には、成年後見人、保佐人、補助人の3種類があります。これらは被後見人の判断能力の乏しさの度合いによって分類されていますが、成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人は、それぞれ後見人、保佐人、補助人が持つ権限の範囲で適正に事務が行われているかどうかを監督します。
具体的には、後見人等が行った行為の報告を求めたり、財産の調査や財産目録の作成などに立ち会ったり、また、特殊な事情がある場合にはその場で対処したりといった事務を行うことになります。また、、被後見人等本人と後見人等の利益が相反する行為(利益相反行為)を行う際には、後見監督人等は本人を代表することになります。
後見監督人等をつけるための手続き
法定後見制度における監督人の選任は、被後見人の家族などが申立てをして家庭裁判所に選任してもらう場合と、それらの申立てを経ずに家庭裁判所が独断で選任する場合の2パターンがあります。どちらの場合でも、特定の人を指名して監督人に選任してもらうことはできず、家庭裁判所が職権で人選を行います。
家庭裁判所が独断で選任する場合については何の手続きも必要ありませんが、家庭裁判所に申立てをする際には次のような定めがあります。
① 後見監督人等の選任を申立てできる人
・ 被後見人
・ 被後見人の親族
・ 後見人等
② 申立てに必要な書類
・家事審判申立書
後見監督人にはなれない人
後見監督人のシステムは「第三者的な立場で、かつ上記権利を適切に活用できる人」が就任しないと機能しません。そこで下記のような「後見監督人の欠格事由」が設けられています。
- 未成年者
- 法定代理人や保佐人、補助人としての地位を家裁に剥奪されたことのある人
- 破産手続きを開始し、まだ復権していない人
- 被後見人に対し訴訟を起こしたことのある人
- 上記の配偶者および直系血族
- 行方の知れない人
- 被後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹
該当する人は成年後見制度全般で監督人にはなれないとされています(民法第847条・民法第850条・第876条の3第2項・第876の8第2項・任意後見契約に関する法律第7条4項)。
成年後見監督人の業務とは
まず、後見監督人に就任した人は、一般的に要求される程度の注意義務(善管注意義務/第644条の2)をもって、下記の仕事をこなさなければなりません。
財産調査への立会い(民法第853条2項)
成年後見制度を開始すると、後見人は速やかに被後見人の資産状況を調査し、その内容をまとめた「財産目録」を作成しなければなりません。後見監督人が選ばれたケースでは、目録作成に監督人が立ち会わなければ不備扱いになります。
債務に関する報告受領(民法第855条2項)
後見人と被後見人が利益相反関係(一方の利益がもう一方の損失となる関係)にあるのは、基本的に望ましくないと考えられています。特に問題なのは、お金の貸し借りがあるケースです。そこで、後見監督人がつき、かつ後見人が被後見人に対して債務を負っている場合は、財産調査に着手する前に監督人へと報告しなければなりません。
後見人が欠けた時の選任請求(民法第851条2号)
後見人が辞任・解任・死亡などの理由でいなくなってしまうのは、当然被後見人にとって問題です。後見監督人がいれば、万一の時も、遅滞なく次の後見人選任を家庭裁判所に請求してもらえます。
急迫の事情がある場合の処分(民法第851条3号)
後見人がいなくなるケース以外にも、不測の事態が起き、被後見人の生活が脅かされる可能性があります。急を要する事態が発生した時は、後見監督人の判断で必要な処分を行ってもらえます。
利益相反にあたる行為の代表(民法第851条4号)
後見人は基本的に、各種手続きについて被後見人を代理できます(保佐人・補助人・任意後見人は原則代理不可/詳しくは後述)。しかし、利益相反関係が生じる場合は別です。
例えば、「家族が亡くなり、後見人と被後見人が揃って相続権を得たケース」が挙げられます。この場合、相続人全員で遺産分割協議を開かなくてはなりませんが、被後見人の代わりに後見人が取り分を主張し決定することはできません。このようなケースでは、通常、被後見人の代理を務めてくれる「特別代理人」を探さなくてはなりません。
しかし、後見監督人がいる場合は、わざわざ特別代理人を探さなくても被後見人を代表してくれます。
後見人の解任請求
監督人がついていても、本記事の始めで触れた「後見人が仕事を放棄してしまった」「被後見人の財産を横領してしまった」などの見過ごせない事態が起こることがあります。以上のように不適切な行動や著しい不正などがあった場合は、監督を受ける人の解任を請求できます(民法第846条・第876条の2第2項・第876の7第2項・任意後見契約に関する法律第8条)。
成年後見監督人の辞任・解任
後見監督人の辞任
後見監督人に正当な事由がある場合、その職を辞任できます(民法第844条・第852条・第876条の3・任意後見契約に関する法律第7条4項)。正当な事由の代表例としては、健康状態の悪化が挙げられます。
後見監督人の解任
当初後見監督人の資質ありと認められたにもかかわらず、後見監督人がきちんとチェック業務を実施してくれないことがあります。このようなリスクに備え、後見監督人に関しても、不適切な行動や著しい不正などがあった場合は解任できるとの規定があります。(民法第852条・第876条の3第2項・第876条の8第2項・意後見契約に関する法律第8条)。
成年後見監督人の報酬
後見監督人に関して言えば、被後見人の財産から報酬を付与できると定められています(民法第862条)。この規定は成年後見監督人に関するものですが、保佐監督人・補助監督人・任意後見監督人にも適用されます。
気になる監督人報酬の額は「報酬付与の審判」で個別に決定され、統一的な基準はありません。
各地の家庭裁判所では、監督事務の難しさに配慮して「被後見人の財産の額」(=管理財産額)を基準の1つとし、後見監督人報酬の目安を、「管理財産額5千万円以下: 月額1万円~2万円」「管理財産額5千万円超: 月額2万5千円~3万円」と取り決めています。
まとめ
今回は成年後見制度の後見監督人についてご紹介しました。任意後見と法定後見で若干選任される順序などが違います。
コメント