タイトルの答えからお話します。認知症であっても契約行為は取り消すことが出来ません。ただし、成年被後見人であることや契約時に意思能力を有していないことを証明できた時、その他契約が日用品の購入でない場合は取り消すことができます。また、認知症の度合いが保佐相当である場合は財産の重要な行為で保佐人の同意がなければ取り消すことができます。このように、民法の知識を活用し、さまざまなトラブルの対処を考えることが出来るようになります。
今回も行政書士試験合格に必要な知識の中から皆さんの日常生活にかかわり合いのある民法についてご紹介していけたらと思います。行政書士は争いのある法律行為は行えませんが、様々な法律を駆使した権利義務に関する書類の作成や事実証明に関する書類の作成を行います。その中で民法とは一般私法であり、人間の社会生活における個人の財産関係や家族関係を規律するルールの役割があります。今回は民法の行為能力について説明しようと思います。この記事は、法律に興味がある方、行政書士試験の合格を目指す方などに参考になる内容になっています。
行為能力とは
行為能力とは自ら単独で確定的に有効な意思表示をなし得る能力を言います。物を売ったり買ったりする場合、それが自分にとって有利か不利かを判断できないと損をしてしまうことがあります。そこで判断能力を有しない者については、その者を保護するため、ある一定の制限をする必要があります。このような制限を加えられる者を法律用語で制限行為能力者と言います。この制限行為能力者は①未成年者②成年被後見人③被保佐人④被補助人があります。
未成年
未成年者とはみなさんもご存じの通り、18歳未満の成年に達していない者をいいます。
未成年者の売買契約等の法律行為は原則法定代理人の同意を必要とします。同意を得ないで行った法律行為は取り消すことができます。
しかし、未成年者単独でも①単に権利を得たり、義務を免れるべき法律行為(贈与や債務の免除)②法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で処分したり、または目的を定めないで許した財産の処分をすること(特定の旅費としての金銭やお小遣い)③法定代理人から営業を許された場合、その営業に関する法律行為は行うことが出来ます。
法定代理人とは両親を思い浮かべるかもしれません。両親がいない場合は、未成年後見人が行うことがあります。
法定代理人には4つの権限があります。①代理権(未成年の代わって法律行為を行う)②同意権(同意を得てした行為は取り消せない)③取消権(未成年の行った法律行為を初めから無かったことにする)④追認権(同意がない法律行為を追認し確定的に有効な法律行為にする。その後の取り消しは出来ない)
成年被後見人
成年被後見人は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所から後見開始の審判を受けたもの」です。
成年被後見人が単独で行った法律行為は原則として取り消せます。しかし日用品の購入その他日常生活に関する行為は単独で行うことが出来ます。(婚姻も単独でできます)
成年後見人は家庭裁判所で選ばれます。成年後見人には3つの権限があります。①代理権②取消権③追認権です。同意権がないのは判断能力を欠く常況にあるからです。
被保佐人
被保佐人は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者で家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者」です。
被保佐人は原則としては法律行為を単独でできます。しかし、財産上重要な行為をするためには保佐人の同意が必要です。主に民法では以下のように決まっています。
民法13条1項
(1)元本を領収し、又は利用すること。
(2)借財又は保証をすること。
(3)不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
(4)訴訟行為をすること。
(5)贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
(6)相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
(7)贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
(8)新築、改築、増築又は大修繕をすること。
(9)第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
(10)前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
この他にも家庭裁判所に請求することによって特定の法律行為を保佐人に代理権を付与することが出来ます。ただし、本人の同意が必要です。
保佐人とは家庭裁判所で選ばれます。4つの権限があります。①代理権②同意権③取消権④追認権です。
被補助人
被補助人とは「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者で、家庭裁判所の補助開始の審判を受けた者」です。
被補助人は原則としては法律行為を単独でできます。ただし、先ほどの民法13条1項の中から家庭裁判所が定めた特定の一部の行為については補助人の同意を得る必要とすることが出来ます。
補助人とは家庭裁判所で選ばれます。4つの権限があります。①代理権②同意権③取消権④追認権です。
取り消しの効果
取消されるとその法律行為は遡及的に無効となります。つまり初めから無かったことになります。
その結果ゆずりけたものは相手に返還しなければなりませんが、制限行為能力者の保護の観点から返還義務の範囲は現に利益を受けている限度で足りるとされています。
相手方の保護
相手方は制限行為能力者との間に法律行為があった場合は自己の意思に関係なく取り消されることになります。そうなると取引の安全を害することになるため保護する制度があります。
①催告権
制限行為能力者に催告した場合、確答しない時は取り消されたものとみなされますが、同意を得れるものに催告した場合、確答しない時は追認したものとみなされます。
②制限行為能力者の詐術
制限行為能力者が詐術を用いて、自らを行為能力者だと誤信させた場合には取消権が否定される場合があります。
まとめ
今回は取引などの法律行為をした際に保護される対象の方や保護する方の権限についてご紹介しました。精神障害といっても、認知症なども含まれるため意外と身近な法律であると思います。家族が認知症になり急に高額な物を買ってきたり、大事な財産を格安で売ってしまったりした時に取消することが出来るよう家庭裁判所で財産の管理人を選任してもらうようにしていきましょう。
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